1990 Fiscal Year Annual Research Report
心身問題とバイオエシックスにおける生命概念との関わりあいについての考察
Project/Area Number |
02610006
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
神野 慧一郎 大阪市立大学, 文学部, 教授 (10046948)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川添 信介 大阪市立大学, 文学部, 講師 (90177692)
中才 敏郎 大阪市立大学, 文学部, 助教授 (20137178)
小林 道夫 大阪市立大学, 文学部, 助教授 (10137177)
塩出 彰 大阪市立大学, 文学部, 助教授 (20039134)
藪木 栄夫 大阪市立大学, 文学部, 教授 (10047285)
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Keywords | 心身問題 / バイオエシックス / 生命概念 / デカルト主義 / 心身二元論 / 脳死 / 生命の質 |
Research Abstract |
本研究の目的は、二年間にわたり心身問題のもつバイオエシックスの諸問題に対する意義を解明しようとするものであり、第一年度たる本年度は、設備備品費によって基本文献を整備すると共に、西洋の哲学・宗教思想史における心身問題あるいは生命論の系譜を分担者の担当領域ごとに分析し、また現代のバイオエシックスの諸問題をその生命理解との連関で検討する作業を行った。その研究実績の概要はおもに以下の二点にまとめられる。 1.現在行われているバイオエシックスをめぐる議論を分析して気付く点は、議論がしばしば西洋の哲学および宗教についての誤解に基づいていること、特に心身を包括した意味での生命概念が混乱いていることである。例えばキリスト教的な霊と肉の区別が心と体の区別と混同され、更にはこのキリスト教的心身分離の生命観がいわゆるデカルト主義(デカルト的な心身二元論と要素分解主義)と共に現代医療における弊害の原因となったとの見解を生み出している。本研究における思想史の分析はこのような見解が初歩的な誤解であることを示すだけでなく、バイオエシックスの混乱した議論を整理し思想史の中に正しく位置付けることを可能にするものとなった。 2.きわめて多岐にわたるバイオイシックスの諸問題のうち、心身問題、生命概念についての哲学的原理的考察からまず問われるのは「人間の死」の問題である。つまり人間の死の問題が身体の死に還元できるのか、例えば脳死は死についての法的社会的了解あるいは個人のレベルでの死の意味の受容といった事柄とどう関わるのか、ということである。死の事実、その認定、死の意味の了解の三者の関係の理解は心身問題と深く結び付いているおり、ここから功利主義に代表される哲学的なバイオエシックスの議論(特にヘア、レイチェル、シンガ-らによる生命の質をめぐる議論)の再検討が可能になるであろう。これは次年度に残された問題である。
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