1990 Fiscal Year Annual Research Report
日常生活経験を通じて獲得される「生物学」と学校で学ぶ生物学との相互作用
Project/Area Number |
02610036
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
稲垣 佳世子 千葉大学, 教育学部, 教授 (90090290)
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Keywords | 日常的生物学 / 飼育経験 / 動物概念 / 身体機能 / 概念発達 |
Research Abstract |
今年度は、子どもが日常生活経験を通じて獲得する知識の本質を明らかにすることを目指し、次の2つの実験を行なった。 実験1:子どもの生物に関する日常生活経験の主要なソ-スのひとつとして動物飼育経験をとりあげ、この経験を通じて獲得する知識の特徴を調べた。幼稚園年長組の幼児約180名に個別面接をし、そこから家庭で長期間金魚の積極的飼育経験のある子どもと動物の飼育経験のほとんどない子どもを各20名、および飼育経験はあるが、自分で世話をしないという意味で、消極的飼育経験の子ども13名を選出し、金魚の生態や飼育手続きについて質問するとともに、金魚を含む種々の“水生動物"(コイ、カエル、カメ)、陸生動物を提示し、動物が共通に持つ属性(呼吸、心臓等)や心的属性の付与を求めた。その結果、積極的飼育経験のある子どもは、そうでない子どもに比べて、金魚についての個別的・手続き的知識や概念的知識の獲得に優れていただけでなく、動物一般の持つ属性を、金魚を含む他の発生学的に人間から遠い水生動物にも付与することが多く、金魚飼育経験を通して、幼児が一般的に持つとされる人間を中心とした狭い動物概念が拡張されることが示唆された。 実験2:心と体の働きの分化の理解がいつ頃から生じるのかを調べるために、3〜5歳の幼児60名に身体内部で起こる現象(満腹、心臓の鼓動)や心理的な現象(物忘れ等)を自分の意志で制御できると考えているを尋ねた。その結果、3歳から5歳にかけて、身体内部の諸器官の働きを自分の意志で制御できないとすることが多くなり、少なくとも4歳児では、心と体の働きを区別していることが明らかになった。しかし3歳児でも、まったくその区別ができないわけではなく、心と体の働きの分化は、かなり早くから始まっていることが示唆された。
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