1990 Fiscal Year Annual Research Report
開発途上地域の教育発展の阻害因としての植民地遺制に関する研究ーラテンアメリカを中心にー
Project/Area Number |
02610132
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Research Institution | National Institute for Educational Policy Research |
Principal Investigator |
斉藤 泰雄 国立教育研究所, 国際研究・協力部, 主任研究官 (30132690)
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Keywords | ラテンアメリカ / メキシコ / 開発途上国 / 植民地教育 / インディオ / 魂の征服 / カトリック |
Research Abstract |
ラテンアメリカは、アジアやアフリカなど他の開発途上地域とくらべればかなり早い時期に独立を達成したにもかかわらず、近代的国民教育制度の発展の遅れという点においては、他の多くの第三世界の国々と同様の課題をかかえる。その要因は、独立後永く続いた政治的経済的混乱に帰しうるところもあるが、むしろ、16世紀初頭から約三世紀間におよんだ植民地期の教育の遺産の根強さ、その古い伝統からの脱却の困難という理由も大きい。新大陸を征服、植民地化したスペイン王室は、そのアメリカ植民地において、まず、新たに支配下におかれた原住民インディオをキリスト教へと改宗するための手段としてカトリックの修道会の聖職者を教師とする教育事業を展開した。やがて植民地経営が軌道に乗りはじめる16世紀半ば以降は、中世大学の伝統を色濃くとどめたスペイン大学をモデルとした植民地大学の設立など、本国の教育制度ときわめて類似した教育体制を作り上げる。この教育体制は、18世紀後半において、教育界に強い影響力をもっていたイエズス会の追放、フランス啓蒙思想の流入などにより若干の手直しを経験するものの、その基本的構造は変わらないままに、植民地教育末期まで保持される。このため19世紀初頭の独立時にラテンアメリカ諸国は次のような特色をもつ教育を植民地遺制として引き継ぐこととなった。(1)宗教と教育との結合、教会と学校の一体化の伝統、聖職者の兼任としての教師。(2)社会階段による教育の格差、少数の白人支配層のためのエリ-ト・シンボルとしてのラテン語教育とヨ-ロッパ流高等教育、インディオなど民衆への初歩的読み書き教育と宗教教育といて二極分化。(3)特に高等教育において、16、17世紀のスペイン大学モデルの凍結、固定化。(4)実用的職業教育の不振、組織化の欠如。こうした伝統は独立後の近代的国民教育制度の設立にとっては、むしろ重荷としてのしかかることとなった。
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Research Products
(3 results)
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[Publications] 斉藤 泰雄: "田中耕太郎とラテンアメリカ大学" 大学史研究(大学史研究会). 第6号. 46-53 (1990)
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[Publications] 斉藤 泰雄: "ラテンアメリカ大学史研究ノ-ト:植民地期" 明治大学史紀要. 第8号. (1991)
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[Publications] 斉藤 泰雄: "メキシコの大学" 大学基準協会会報. 66号. (1991)