Research Abstract |
この調査・研究は、アイヌ民族の冬期生活資料,特に住居,毛皮製衣服,カンジキ,スキ-,除雪具に重点をおき,アイヌ民族が冬 あるいは寒さに対してどのような考えをもち,それらが歴史的,文化的にどのような変遷を経たか。樺太,千島など北方諸民族,さらに日本の資料と比較し解明しようとするものである。 今年後の調査は,ロシア語論文の翻訳,及び上記資料の所在調査を国立民族学博物館,北方民族博物館(網走),名寄市郷土資料館にて実施した。この結果,毛皮製衣服,スキ-,除雪具が残存していないことが明らかになった。毛皮製衣服が残存しないことは,アイヌ民族が冬期間に毛皮製衣服を一般的に着用しなかったことを意味するものであり,その背景には手皮が松前藩の重要な交易品のひとつであったことが大きく影響した結果と思われる。しかし,これらの交易が盛んであった近世以前はどうであったかは不明であり,今後の課題である。 樺太,シベリアの北方諸民族に認められるスキ-は,冬期間の歩行具として一般的であるのに対し,アイヌ民族では認められず,冬期間における生業形態の相異によるものと思われる。除雪具に関しては,スキ-の事例と逆に,東北・北陸地方多様に伝承されたにもかかわらず,北海道アイヌ,樺太等では使用しなかったようである。このことは雪質の相異が大きく影響するものと考えられ,今後,カンジキの形態的相異,あるいは住居の相異と変遷を加味しながら解明しなければならない。 次年度の調査は,博物館等における上記資料の所在調査,文献調査を進めるとともに,近世における毛皮の交易に関する背景,冬期間における生業形態の比較,近世における毛皮の交易に関する背景,冬期間における生業形態の比較,雪質の相異と生活様式の関係について解明し,アイヌ民族の冬,寒さに対する考え方,あるいは文化の一端を明確にしようとするものである。
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