1990 Fiscal Year Annual Research Report
第一次大戦前のイギリス植民地省による帝国統治政策に関する研究
Project/Area Number |
02610175
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
木村 和男 筑波大学, 歴史・人類学系, 助教授 (10004079)
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Keywords | カナダ / 西洋史 / 大英帝国 / 帝国主義 |
Research Abstract |
本研究では、イギリス植民地省による帝国統治の具体的事例として、「研究実施計画」に基づき、世紀転換期の帝国通商同盟問題、とりわけ1897年のカナダによる「対英特恵関税」設定を契機とした植民地省とカナダ自由党政府との対抗を取り上げた。W.ロ-リエのカナダ自由党が、国内での英仏系の対抗を妥協させるため、1897年に二重関税制度の導入を余儀なくされ、それがチェンバレンを筆頭とするイギリス植民地省からの圧力で、本国産品のみを優遇する対英特恵に変容させられた経緯が焦点とされている。研究方法としては、(1)基本文献の調査と収集、(2)マイクロフィルム形態での基礎史料の購入、(3)諸研究組織での研修の三点が柱となった。 本年度の研究による新たな知見として、(1)フランス系カナダ人を党首とし、伝統的に本国からの独立と合衆国との貿易拡大を目指してきた自由党政府が、カナダ政治・経済を支配してきた親帝国的なイギリス系カナダ人との妥協のために導入したのが1897年関税であり、それは一般関税よりも12.5%低い互恵関税を新設して二重関税制度を導入し、当面本国に互恵関税を適用することで、合衆国にカナダとの貿易改善交渉を迫ろうとするものであったことを、実証的に明らかにした。(2)これに対し本国植民地省は、カナダの二重関税制度が、本国とベルギ-、ドイツ両国との通商条約に抵触するとの理由から、互恵関税の適用を明確に本国のみに限定するよう迫った。チェンバレンからの圧力と、英加双方での帝国主義的世論とに押され、ロ-リエが98年に二重関税を帝国特恵関税へと修正せねばならなくなった経緯を、主に植民地省文書Colonial Office Papersを利用して論証した。(3)さらに1897年イギリス植民地会議でチェンバレンとロ-リエの間で戦わされた通商同盟論争の分析が重要であるが、これは来年度以降の課題に残されている。
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[Publications] 木村 和男: "1897年フィ-ルディング関税におけるカナダの「対英特恵」政策" 歴史・人類. 18. 123-171 (1990)
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[Publications] 木村 和男: "19世紀末のイギリス帝国における特恵関税論争の一局面" 社会経済史学. (1991)
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[Publications] 木村 和男: "カナダの試練/連邦結成" 日本放送出版協会, 350 (1991)