1990 Fiscal Year Annual Research Report
ドイツ第二帝制期における農民の意識と行為に関する史的研究
Project/Area Number |
02610186
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Research Institution | Kagoshima Women's Junior College |
Principal Investigator |
田中 優 鹿児島女子短期大学, 教授 (40132526)
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Keywords | 農民と下層民の世界 / 反封建的地域セクショナリズム / 農民解放 / 市場経済の発展 / 労働時間と生活時間の分離 / 余暇の組織化 / 農村在住の工場通勤労働者 / 急進的国家ナショナリズム |
Research Abstract |
19世紀の農民の意識と行為の特徴は、農村支配を正当化する保守主義として表し得るが、しかしその内容は19世紀前半と第二帝制期とでは大いに異なる。19世紀前半のそれが反封建的地域セクショナリズムであるとすれば、第二帝制期のそれは、中産層イデオロギ-を受容した急進的国家ナショナリズムとして特徴づけられる。 農民の意識と行為におけるこの変化は、農村社会での市場経済の発展による労働時間と生活時間の分離、そして余暇の出現とその組織化に求められ得る。19世紀前半の市場経済が未発達で労働時間と生活時間が未分離の農村社会にあって、農民は下層民という自己とは異質な社会層を支配しつつ、両者は領主に対抗して、生活・生存の保障を古くからの慣習の維持に求めながら農村地域の枠内で共存していた。 しかし農民解放による領主権力の消滅、19世紀後半の農業労働における賃労働化、そして工業化と鉄道網の発展に伴う農村在住下層民の工場への通勤労働者化、これらは一体となって農民と下層民それぞれの世界の変貌と対立をもたらした。 第二帝制期の農村では、労働時間と生活時間が分離し余暇が出現した結果、農民と下層民はそれぞれ歌声協会や体操協会等を組織し自らの文化を創造し始めた。なかでも下層民の結社運動は、社会民主党を支持して農村地域の枠を越え都市労働者と結合する可能性を示したが故に、農民はこれに対抗する為に、それまで維持しつづけた農村支配を正当化しようと中産層イデオロギ-を受容し、急進的国家ナショナリズムに統合されるのである。
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