1991 Fiscal Year Annual Research Report
ドイツ第二帝制期における農民の意識と行為に関する史的研究
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02610186
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Research Institution | Kagoshima Women's Junior College |
Principal Investigator |
田中 優 鹿児島女子, 短期大学, 教授 (40132526)
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Keywords | 反ユダヤ主義 / 名望家政治 / 大衆社会 / 政治参加の権利 / 政党システム / 農村社会の合意形成 / グルントヘル的制約 / 農業保護関税 |
Research Abstract |
第二帝制期のドイツ農民は農業者同盟ばかりでなく、農民協会や反ユダヤ主義運動に組織された政治活動を展開したが、この政治化の枠組みは次のように設定できる。市場経済の発展と国民国家ドイツ帝国の建設は、伝統的な名望家政治の終わりの始まり、大衆社会への移行の開始として位置づけられ、この過渡期に生きた農民は政治参加の権利を手に入れて自らの世界を再構築した。それは必ずしも既存の政党システムに統合されることのない固有の世界であった。 名望家政治から大衆社会への過渡期における農民の政治化は、しかし民主主義や自由主義でなく、反ユダヤ主義・反自由主義に接合した。その原因は農村社会の合意形成のあり方に求められる。エルベの東を除いてグルントヘル的制約下に置かれていた一九世紀前半の農村では、農民とそして農村社会のもう一つの構成部分である下層民は、村を単位として、反封建・反領主あるいは反ユダヤ主義によって結びついていた。ところが、一九世紀末葉に下層民が自立化傾向を示すや、農民は農村でのヘゲモニ一的地位維持を目的に反ユダヤ主義を強化し、農村社会の合意形成を試みた。 他方では、土地を入手して今や賃金労働者のみならず農業経営者となった下層民は、農業保護関税を支持して経済的に農民と結びついた。農業経営合理化の意味において、市場経済からの逆行としてではなくて、捉えられる農業保護関税は、農民と下層民を連接する役割を果した。従って第二帝制期のドイツ農民の意識と行為は、農村社会における合意形成の側面からみれば、経済合理化と反自由主義・反ユダヤ主義のスペクトルにおいて捉えられる。
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