1990 Fiscal Year Annual Research Report
近代不文憲法の現代的動揺とその未来ーサッチャ-政権下のイギリス憲法ー
Project/Area Number |
02620013
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
元山 健 東邦大学, 理学部, 教授 (80116285)
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Keywords | イギリス / サッチャ- / 不文憲法 / 国会主権 / 法の支配 / 社会的合意 |
Research Abstract |
1980年代のイギリスはサッチャ-首相の時代であった。サッチャ-時代の英国政治の特徴は、「福祉国家の過剰」の是正、弛緩した社会規律の再構築、そしてこれらをやりとげるための権威主義的統治の手法に、まとめることができる。本研究の目的は、こうしたサッチャ-主義とも称される10年余の統治が、先進国で唯一の不文憲法であるイギリス憲法に与えられた衝撃を検討しながら、近代不文憲法の歴史的意義を問い、将来を占うことにある。 本年度はサッチャ-政権の諸政策とその実施の仕方とがもたらす,統治システムおよび社会との圧轢を検討しながら,以下の諸点を明らかにした。第一にイギリスは「法の支配」する国として,近代以来有名だが,実は「法」が社会諸関係・国家諸関係を規律する程度は意外に小さく,諸関係の実体的形成は国家・社会諸主体間の自主的「合意」による面が多大である。そしてこのことは統治のシステムにも反映しているのである。ところがサッチャ-は,この自主的「実体」の「合意」とその「仕方」とを,国家制定法(国会の政治的過半数で成立するー権力的な)によって規律しようとして,国家・社会諸関係の根本的成立原理との圧轢をひきおこしたのであった。第二に「国会主権」と言い,「法の支配」といっても,近代的概念としてそれらは「国家」と「法」によれば何でもできるといった建前だけで把握してはならず,上述したような「合意」の調達を前提としなければならないのである。上述の「合意」が社会的変動の各局面で,近代的統治構造に適合的な形成で調達される限り,「国会主権」「法の支配」「不文憲法」は安泰であるが,そのような形式で調達しうる能力が失われたとき,不文憲法には動揺し始めるのである。 本年度は統治の側面からの分析が中心だったので,次年度は市民の自由の側面からも分析を進める予定である。
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