Research Abstract |
有機金属錯体であり,異なった置換基を1,2ー位あるいは1,3ー位に有することによって面不斉となるフェロセン化合物に対する酵素反応の検討を行った。反応は,不斉還元酵素として知られるパン酵母と,エステル交換反応酵素であるリパ-ゼを用いてそれぞれの反応を検討するとともに,同じ置換基を2つ持つためにメソ体となっているフェロセン化合物に対して酵素による官能基変換反応を行い,面不斉化合物となるかどうかを検討した。1,2ー置換体12種,1,3ー置換体3種の基質に対してアルデヒド基の不斉還元を行い,2位に置換基を持つものはR体が優先的に,3位に置換基を持つものはS体が優先的に還元され,それぞれS体,R体のアルデヒド体が残ることを確かめた。置換基が大きいほど還元速度が遅くなり,生成アルコ-ルの光学純度もよかった。また,回収したアルデヒド体の光学純度は70〜90%であった。次に,フェロセニルメタノ-ル類8種に対してリパ-ゼ酵素(リパ-ゼPS,リポザイム)とアシル化剤存在下でのエステル交換反応を行った。置換基がメチルの場合には不斉識別が見られなかったが,他の置換基では1,2ー置換体,1,3ー置換体ともリポザイムではS体アルコ-ルが,リパ-ゼPSではR体アルコ-ルがエステル化を受けることがわかった。光学純度は16〜99%の範囲であった。次に,1,2ーおよび1,3ージアルデヒド体に対するパン酵母還元,1,2ーおよび1,3ージメタノ-ル体に対するリパ-ゼ酵素による不斉エステル交換反応を行い,いずれの方法でもメソ体より光学活性なヒドロキシメチルフェロセンカルバルデヒドを得ることができた。1,2ー,1,3ー両置換体ともにパン酵母還元によって最も良い結果が得られたが,その光学純度は70%弱であった。現在,さらに新しいフェロセン核を有する基質を用いての同様な酵素反応の検討を進めている。
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