Research Abstract |
南米ペル-のプレインカ時代の人骨の研究は,モンゴロイドの成立,拡散さらには小進化の研究を進展させる上で重要である.本年度は新潟大学保管のチャンカイ遺跡人骨(以下,チャンカイ人)約140本分の骨格および歯の計測的・非計測的形質に関する基礎デ-タの収集をほぼ予定通り終了した.次年度はX線撮影,モアレ縞撮影,写真撮影を行い,最終的にデ-タの統計学的分析を行い,この人骨群の形態学的な人種的位置を明らかにする.本年度得られたデ-タは頭蓋,体肢骨および歯毎に各分担者が目下整理,解析中であるが,顔面頭蓋の平坦度については分析が進んでいるので,その結果(第96解剖学会総会で発表予定)を要約して述べる.一般に,南米古人骨の頭蓋には風習による人工変形が認められるが,チャンカイ人ではその頻度は男性約65%,女性約50%に及ぶ.そのタイプはほとんどが前頭後頭型に分類される.この変形操作は人骨の本来の形質を調べる際の支障になるが,少なくともWoo and Morant(1934)などによる計測学的な顔面の扁平度には,その影響はほとんど表れていない.従って,原則として非変形群と変形群を一括して検討した.まず,平坦度示数であるFrontal,Simotic,ZygomaxillaryおよびPremaxillary indexには男女性間の有意差はみられない.Woo and Morant,Dodo(1986)およびYamaguchi(1978,80,88)等に用いられているいくつかの人種群を引用し,それらの実測値であるChordとSubtenseを組み合わせて群間のペンロ-スの形態距離を計算し,これをもとに主座標分析を行ったところ,チャンカイ人は明らかにモンゴロイド集団の中に含まれた.とりわけネパ-ル人,アイヌ,縄文時代人と比較的近く,モンゴロイドのなかでは相対的にIndexが大きく,ややコ-カソイド寄りに位置するのが注目される.チャンカイ人と最も遠いモンゴロイドはエスキモ-である.なお,これらの人種の位置的関係は男女間の相関が高い.
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