Research Abstract |
各種哺乳類の精巣を材料として用い,種々のレクチンの結合性を光顕および電顕で観察することによって,精細胞の分化における糖鎖構造の存在と意義を検討した。 まずヤギ精巣においては,SBA(Soybean agglutinin),GSーII(Griffonia simplicifolia II),PNA(Peanut agglutinin)が精子細胞の尖体系に強陽性を示した。SBAはゴルジ相,頭帽相,尖体相および成熟相の各精子細胞の尖体系にのみ反応したのに対し,GSーIIは尖体系のみならず細胞質内にも顆粒状の反応を示した。またPNAはlate pachytene spermatocyte以降の精細胞の細胞膜および細胞質にその反応が認められたが,この時期以前では細胞質内に微弱な反応をあらわすにすぎなかった。したがって,この時期,特に細胞膜においてDーガラクト-スを含む新たな糖鎖構造が出現する可能性が示唆された。このようにPNAは精細胞の発育過程で細胞膜における結合性が変化することから,新しいマ-カ-としての有効性が考えられる。 近年,食虫目に属する実験動物として注目を集めているスンクスにおけるレクチン結合性は,ヤギとやや異なっていた。GSーIIは初期の尖体にはあらわれず,尖体の伸長の開始に伴って出現した。これは尖体物質の糖鎖の修飾が,発育中の尖体内でも継続して起こることを示唆する。ヤギ,ラット,ゴ-ルデンハムスタ-,トゲネズミでは,Con A(Concanavalin A),WGA(Wheat germ agglutinin)以外のレクチンはセルトリ細胞に結合性を示さなかったが,スンクスでは,Con A,WGAの他,RCAーI(Ricinus communis I),BPA(Bauhinia purpurea)およびPNAがセルトリ細胞に反応した。これらのレクチンの結合性は,精上皮の周期に伴って大きく変化した。その反応部位は,電顕観察からセルトリ細胞の細胞内膜系であり,出現時期は精子細胞の尖体の伸長時期と一致する。この時期,セルトリ細胞内には尖体を含む精子細胞頭部の形態形成に関わって,細胞内骨格系の活発な動きなどの著明な変化が生じている。したがって,これらのセルトリ細胞の動態に応じて,細胞内膜系に存在する複合糖質に変化が起こることが今回明らかとなった。 またゴ-ルデンハムスタ-では,GSーI,BPAが精子細胞の尖体に反応した他,GSーIIが精子細胞尾部に結合性を示した。 季節繁殖動物であるトゲネズミでは,その繁殖期においてSBA,GSーIIが尖体に,PNAが精子細胞,精母細胞の尖体,細胞質,細胞膜に反応した。一方,その非繁殖期の精巣では,精子細胞の脱落からSBA,GSーIIの反応性は消失したが,PNAは依然として精母細胞の細胞質,細胞膜に反応した。
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