Research Abstract |
咀嚼筋の機能に関する系統学的研究の一貫として,本年度は硬骨魚類のなかでも進化度の高いコイ科魚類に属するフナ,オイカワ,ウグイの摂食行動を詳しく観察するとともに,閉顎筋における筋線維構成とLactate dehydrogenase(LDH)アイソザイムについて検討を加えた.フナに比べてオイカワとウグイは河川の中流域に生息しており,比較的流れの速い場所で,主として流下性の水棲昆虫等を食べる.したがって,口の開閉は素早く行われなければならない.これに対してフナの場合には下流域の止水域に生息しており,高頻度で口を開閉しながら,水底の泥と共に餌を吸い込み,鰓でこし分けて食べるという方法をとっている.このため,フナの開顎筋と閉顎筋はオイカワやウグイと比べて持続的な収縮力を持つことが要求されと推測される.このような行動学的特性が閉顎筋の性質とどのような関連性を持っているかについて,組織化学的に調べた結果,流れの速い環境下で素早く餌を食べるオイカワやウグイでは,閉顎筋はSuccinic dehydrogenase(SDH)活性が低く径の大きい白筋線維,SDH活性が高く径の小さい赤筋線維,およびその中間型線維から構成されている.その比率からみると白筋線維の割合が多く,深部には赤筋線維が,表層部には白筋線維が主として分布していることが判明した.一方,止水域で口を連続的に開閉して餌を食べるフナの閉顎筋にも3種類の筋線維が存在するが,フナの場合には赤筋線維の占める割合がオイカワとウグイに比べて多く,その分布様式は哺乳類の閉顎筋のものと類似性が高いことが判明した.これらの結果から,摂食行動が複雑になるに伴い,閉顎筋の筋線維構成も複雑化していくことが示唆された.また,ウグイについてはLDHアイソザイムパタ-ンの解析から,前年度のサケ科魚類に属するヤマメとは異なり,閉顎筋には哺乳類と同様,5つのアイソザイム(A_4,A_3B,A_2B_2,AB_3,B_4)が認められた.さらに,ウグイではB型アイソザイムの占める割合がヤマメの閉顎筋よりも多いことが明らかになった.この差は,両者間における摂食行動の違いと関係していると推測できる. 以上の結果は,硬骨魚類のなかでも進化度の高いコイ科魚類において,閉顎筋の組織学的構成とLDHアイソザイム構成の進化度が摂食行動の進化度と相関性を持っていることを示唆している.
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