1990 Fiscal Year Annual Research Report
広瀬淡窓の教育思想の系譜ー荻生徂徠・亀井南冥・昭陽の影響を中心にー
Project/Area Number |
02801038
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
田中 加代 日本女子大学, 文学部, 助手 (90060714)
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Keywords | 広瀬淡窓 / 敬天思想 / 教育思想 / 荻生徂徠 / 亀井南冥・昭陽 / 徂徠学 / 朱子学 / 折衷学 |
Research Abstract |
本課題は、広瀬淡窓の「敬天思想」の系譜を、教育思想としての面から探究するものである。彼の思想は、荻生徂徠・亀井南冥・昭陽の影響が非常に大きいものであるということを、この一年間の研究により強く感じている。先行研究者の淡窓の学統問題に関する論議には、淡窓を老荘学派・折衷学派・あるいは独自の思想家とする説があり、諸説は時代により変化してきたものの、現在では徂徠学と朱子学との折衷学派であるとする説が学界の多数を占めていると考えられる。しかしながら、それらは徂徠や淡窓の師の亀井南冥・昭陽の影響を十分に吟味しての論議であるとはいえず、したがって、その影響をふまえた上での淡窓の「独自性」をも浮き彫りにいているとは言い難い。 筆者は、淡窓の学を徂徠学と朱子学との折衷と考える現在での多数説については、両者が半々に折衷されたものとはいえないと考える。それを論証するに当たり、まず淡窓の経書解釈の傾向を明らかにした。当時の儒者の任務は経書解釈が中心であり、彼の思想の根本はそこから演繹されるものだからである。その結果、やはり淡窓の解釈の傾向は、徂徠・亀井南冥・昭陽の影響を受けている点がかなり多く、朱子に拠る部分は旅ないと思われる。さらに、それをふまえて彼の教育思想に関し、「学習論」「教化論」「治心論」について考えていくに、やはり同様に教育思想・実践についても徂徠・亀井の影響が大であり、淡窓は両者を乗り越えようとしている点が伺われる。それは、徂徠学の「修身論」の欠如を補おうとする視点と、徂徠以後、亀井家学においても欠如している外的な規範を設定しようとすることである。(外的な規範とは徂徠においての礼楽に相当する。)そして、淡窓は「敬天思想」を確立したのであるが、以上の点で、やはり彼の学は徂徠学の系譜の上に明確に位置づけられるものと考えられるのである。
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