1990 Fiscal Year Annual Research Report
紀元3世紀のロ-マ帝国に関する政治史的・社会史的研究
Project/Area Number |
02801049
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Research Institution | Osaka University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
南川 高志 大阪外国語大学, 外国語学部, 助教授 (40174099)
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Keywords | 軍人皇帝 / 元老院 / 内乱 / 元老院議員 / 騎士身分 / 元首政 / アリストクラシ- / 軍隊 |
Research Abstract |
本研究は、ロ-マ帝国史研究の中で最も解明困難とされてきた紀元3世紀の帝国史について、政治史的社会史的考察を試みたものであった。まず、解明困難の最大の原因であった史料の不足について、研究代表者(南川)は、文学的史料・法的史料の収集、分析に努めるとともに、碑文史料やその分析を行なった研究書の収集、分析に力を注いで、その克服に努力した。そして、碑文史料やその分析の成果を、社会学的手法で検討した結果、この世代における政治支配層の交代、すなわち、2世紀までの元老院議員身分に代わって、新たに興隆してきた騎士身分の動向を、在来の研究よりもより一層明確に把握しえた。こうした社会層の変動の考察をふまえてこの時代の政治史の展開をも検討し、この世紀における皇帝政治、所謂元首政の変質をより深く理解することに努力したが、とくに、238年の最初の軍人皇帝マクシミヌスに対して一致団結して反抗した元老院の動きに、帝国政治の一つの画期的な転換点を見い出すことができた。つまり、マクシミヌスは元老院議員たちと結びついて統治した従来の皇帝とは全く異なる新たなタイプの統治者であり、この皇帝以降、皇帝とその統治は元老院議員身分より明確に遊離していったのである。こうした変化に対する危機感ゆえに、元老院議員たちは一致団結してマクシミヌスに反抗したのであった。マクシミヌス以後約50年間のあいだに元首政は崩壊してしまったのであり、これらの知見から逆に考えれば、1〜2世紀に機能した元首政は、皇帝と元老院議員階層が共同した政治形態であり、元老院アリストクラシ-呼びうるものと把えられるのである。以上の如き本研究から得られた結論は、さしあたり論文にまとめられて、歴史学の総合研究雑誌『史林』(史学研究会刊行)の74巻3号に掲載され、広く発表される予定である。
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