2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
02J03334
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
井田 太郎 早稲田大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 酒井抱一 / 江戸座 / 大名俳諧 / 摺物 / 国際情報交換 / フランス:ドイツ |
Research Abstract |
本年度の研究実績は以下の3点に大別される。 1 近代の俳諧・江戸後期文化研究での酒井抱一の俳譜・絵画、江戸後期文化受容のあり方の考察 2 江戸座俳諧のプロの俳人と姫路藩主酒井家の交流の把握 3 狂歌壇の中の酒井抱一(尻焼猿人)の活動、および関連摺物の調査 近世の江戸文学・文化研究は町方(町民)文化を中心にして記述されてきた。しかし抱一は譜代大名の次男で、大名文化にも属する。 1は、抱一の俳諧の研究史・受容史に注目し、その俳譜が正岡子規たちの俳句に対する価値観といかにずれていたかを示した。また、俳諧をめぐる評価システム自体の変化にも注目した。抱一の発句は同時代にとっては面白みがあったが、近世俳譜をめぐる<文学史>とそれらの形成者たちが文学史を構築するに際し、子規の価値観(<写生>など)によったために、正当な文学史で位置づけられなかった。一方、明治以来の好事家たちによる抱一の俳諧・絵画の評価は<江戸趣味>愛好に立脚し、町方文化・都市文化の中でのみ評価し、位置づけようとする弊があった。このギャップが近代における抱一受容のあり方、それらが現代の研究に還流し、惹起した諸問題を指摘した。現在、この1は論文を執筆中である。 2は、従来の俳諧研究では未着手の大名の文芸とプロの俳人の関係を抱一の兄忠以(宗雅)の句稿によって把握した。プロの俳人による添削が備わる大名関係の文芸資料は以外に類例がない。この分析で抱一の10代から30代にかけての文芸環境を解明した。2は2003年春の日本近世文学会で学会発表する予定である。 3では、町方文化の代表として文学史で頻繁に記述される狂歌史での抱一を扱った。在外資料の新紹介摺物などによって、主要活動期は天明五年から八年に限られることを解明した。3では狂歌作者抱一の活動を網羅しながら、実際の活動を辿ると文芸面では俳諧が本領であることを確認した。3は論文化して投稿中(早稲田大学国文学会「国文学研究」138)である。
|