2003 Fiscal Year Annual Research Report
占領下(1940-44)のパリにおける、フランス人作曲家の音楽活動の検証と考察
Project/Area Number |
02J03506
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
田崎 直美 お茶の水女子大学, 大学院・人間文化研究科, 特別研究員PD
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Keywords | 音楽学 / 文化史 / フランス / 20世紀 / 第二次世界大戦 / ヴィシー政権 / 演奏会 |
Research Abstract |
本年度はドイツ占領下(1940-1944年)のパリにおけるフランス人作曲家の音楽活動状況検証の一環として、当時のパリの「演奏会」という場におけるフランス人作曲家の作品上演を巡る状況と傾向を検証した。検証方法として、フランス国立古文書館所蔵の行政文書、パリ国立図書館および現代歴史協会(IHTP)が所蔵する当時発行されていた音楽・文芸雑誌や新聞等より、当時の演奏会関係情報の収集を行った。その結果、以下の特徴が明らかになってきた。 1.フランス政府助成の演奏会:ヴィシー政府(時のフランス政府)の文化政策の視点から まずパリの交響楽団の中で最も歴史と威信のあった「コンセルヴァトワール演奏協会」の活動を検証した。その結果、1)芸術局(ヴィシー政府)およびドイツ当局双方からのプログラム検閲、2)占領前と同じ定期演奏会プログラム傾向(ドイツ系交響曲中心)の維持と、音楽祭におけるドイツ系作品の台頭(1942-43年シーズン以降)の一方で、3)芸術局による補助金の増額と、新作を含むフランス人作曲家の作品上演時間の延長(対占領前)、4)古典(バッハ、ベートーヴェン等)中心のドイツ系作品上演に対して、フランス系作品上演は多くの現代作曲家の作品を取り上げる形で行われたこと、が明らかになった。 この他、1943年10月以降には、芸術局パリ市総監督主催/後援演奏会も数多く開催されていたことも分かった。特に、主催演奏会は近・現代フランス人作曲家の作品中心で構成されたこと、演奏会の他にもフランス人音楽家救援活動(記念切手発行)を行うなど、芸術局主導のフランス音楽プロパガンダが行われていた実態が浮き上がってきた。 2.民間(自主運営)の演奏会:運営方針と実際 占領期間中通して最も活動的であった室内楽協会「ル・トリプティーク」の演奏会プログラムを検証した。その結果、当初はフランス音楽(特に現代音楽)上演の機会提供を目的としてフランス音楽のみで構成される演奏会中心であったが、1942年4月以降(ラヴァル政権下)急速に外国音楽も上演する形態が多くなり、フランス音楽プロパガンダが弱められていったことがうかがえる。 一方で、1943年に新結成された「プレイヤード演奏会」のように、フランス人作曲家への新作委嘱と上演機会提供により示威運動を目指した演奏会の存在も明らかになった。
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