2002 Fiscal Year Annual Research Report
人工膜上に再構築したRasシグナル伝達系の1分子可視化解析
Project/Area Number |
02J05041
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
新井 由之 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | Ras / エフェクター / 蛍光共鳴エネルギー移動(FRET) / 1分子イメージング / 準安定状態 |
Research Abstract |
低分子量Gタンパク質の一つRasは、細胞の増殖や分化の促進に重要な役割を果たしている代表的なシグナル伝達タンパク質である。ホルモン等の細胞外刺激に応じて、GTPと結合した活性型となる。活性型のRasは、RafやRalGDS、PI3K等の多様なエフェクター分子と相互作用し、様々なシグナル伝達経路に関与している。しかしながら、Rasがそれら多様なエフェクター群をどのように認識し、相互作用しているかは未解明である。本年度、申請者は、1分子イメージング技術と、蛍光共鳴エネルギー移動法(FRET)を融合させた、1分子FRET技術を用いることで、活性型Rasの構造変化と機能の相関を調べた。 FRETとは、二つの異なる蛍光色素(ドナー、アクセプター)を用いることで、二つの色素間の位置関係を調べる手法である。タンパク質1分子に蛍光色素をそれぞれ標識し、1分子レベルでイメージングすることで、タンパク質分子内の構造変化を観ることができる。野生型Rasと、特定のエフェクターとのみ選択的に結合する変異体であるRasT35SとRasE37G(それぞれエフェクターであるRafとRalGDSと選択的に結合する)を、それぞれ組み替え体として得た。ドナーとしてRasは蛍光色素Cy3で特異的に標識し、アクセプターとして申請者が合成した蛍光性GTPアナログCy5-GTPを用いた。Cy3とCy5の蛍光を、同時に1分子イメージングすることで、Ras1分子のミリ秒から秒オーダーでのゆっくりとした構造変化を溶液中において可視化することができる。 野生型Rasを1分子FRETを用いて観察したところ、同じ野生型であるにも関わらず、それぞれ異なる構造をとっている様子が計測された。さらに、Rasの構造が秒オーダーという非常にゆっくりとした時間で自発的に遷移している様子が計測された。また、同じように変異体RasであるRasT35SやRasE37Gを計測したところ、野生型Rasとは異なり、ある特定の構造に固定されていることを示唆する結果を得た。今回得られた結果から、活性型のRasは、多様な準安定状態をとり、その状態間をミリ秒から秒オーダーという、非常にゆっくりとした時間で遷移することで、多様なエフェクターを認識し、相互作用していることが示された。
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[Publications] Yoshiyuki Arai, Hiroaki Yokota, et al.: "Ras takes multiple conformations to adapt to its multiple effectors"Biophysical Journal. 82. 452-452 (2002)
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[Publications] Yoshiyuki Arai, Atsuko H.Iwane, et al.: "Multiple forms of activated Ras observed directly by single molecule FRET"Biophysical Journal. 84. 37-37 (2003)