1993 Fiscal Year Annual Research Report
証文資料における社会層に起因する相違を中心とする言語異形の研究
Project/Area Number |
03451063
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Research Institution | HIROSHIMA UNIVERSITY |
Principal Investigator |
小野 光代 広島大学, 総合科学部, 教授 (40002985)
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Keywords | 初期新高ドイツ語 / トルナヴァ / 証文 / 遺言書 / テスタメント / 言語異形 |
Research Abstract |
本年度はTrnavaの遺言書資料を扱った。 この資料はスロヴァキアのTrnava市文書館の,“Testamenty"集から16世紀のドイツ語の文書に限って収集したもので,75件あり,作成者は職業名から,明らかに市民階級と呼ぶべき層に属している。チェコ及びスロヴァキアの他の文書館でこれに類するものは見いだせなかった。近代初期のこの階層からのまとまりのある文書資料は貴重といえる。文書の状態は比較的良いが、判読不能なものも若干含まれる。1511〜95間に,年に1、2件、まれに3、4件の割りで書かれている。Trnavaはスロヴァキアの西部、オーストリアとの国境近くに位置するごく小さな都市だが、交通の要衝にあたり,12世紀に起源を持つ、文化的伝統の古い町である。後にブダペストに移されたが、スロヴァキアでの最初の大学がおかれたところである。当時はハンガリー王領内の自由都市であり、常に多民族よりなる人口構成を持ち、ドイツ系住民は中、上層を占める。 遺言書を前年度まで扱ってきた証文(Urkunde)資料と比べた場合,その形式上の差は明かである。Urkundeでは例外なく,独特の書式で文末におかれている日付は,後者では冒頭の慣用的な神への呼びかけと結びついて記述されている。すなわちこの二つの要素で一つの副詞句を作っているのに過ぎない。それに続く作成者の名乗りと意図の表明も即物的である。文構造は簡単で複文よりも,単文が多い。複合動詞構造は極めて現代のものに近い。 当該研究課題の目的は中世後期,近代初期のドイツ語圏における言語状況を考察し,統一ドイツ語形成過程解明に寄与する,基礎資料を得ることであった。Trnavaの遺言書資料の分析は,近代社会を特徴づける市民階級の意図を表明する手段としての,実用的文書の性格を明らかにした。即ち直載的なコミュニケーションを可能にする方向への,書き言葉の領域における言語変化の動きである。
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[Publications] 小野光代: "メーレンで成立した13世紀の二つのドイツ語証文-証文資料集と初期新高ドイツ語研究-" 日本独文学会西日本支部 西日本ドイツ文学. 5. 1-12 (1993)
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[Publications] 川島淳夫編: "ドイツ言語学辞典 項目分担執筆" 紀伊国屋書店, (1994)