Research Abstract |
カイコガBombyx moriには二型の精子がある。有核精子と無核精子である。精巣で形成され,貯精嚢で射精まで待期するが,いずれも運動性を欠く。前立腺分泌物のセリンプロテア-ゼ型エンドペプチダ-ゼ,イニシャトリンを、貯精嚢中の無核精子に与え,運動を誘起させることができた。分子節やイオン交換樹脂等のカラムを見えたFPLCによる分離から、約120倍に精製されたイニシャトリンを得た。SDSーPEGEは、まだ数本のバンドを示したが,目的のバンドを切り出し,抽出後,ウサギに射ち,抗体を得た。前立腺の酵素活性は,9日目蛹から,羽化後1日目の成虫まで急増する。抗体によるイムノブロッティングは,この酵素が30KDaの蛋白で,活性の上昇が,mRNAからの飜訳によって生じた酵素分子の増加に基くことを明らかにした。羽化後第一日の雄蛾は,交尾,射精すると,活性が殆んど0のレベルにまで低下した。その後,除々に回復し,24時間後には,未交尾雄蛾前立腺中の活性の約1/10に達する。この雄を再度雌に交尾させると、100%の受精率で正常卵を産んだ。カイコガは、前立腺中のイニシャトリンに関し,少くとも10倍以上の安全係数で,未交尾雄蛾による新鮮な精子を供給するという戦略をもっていることになる。イムノプロッティングによる結果は,これも酵素分子の新生による増加を示した。精包へ移入するイニシャトリン活性は,交尾前後の前立腺中の活性差と略同じであった。また,抽出法によって,酵素活性が異なるものの,いずれも,交尾後20分で最大に達し,以後減少した。精包でのイニシャトリンの分子は29KDaと,前立腺のより、少し小さくなった。これは、イニシャトリンの活性化によるものと思われる。ヤママユガでは、カイコガと異なり、貯精嚢が二分されるが,やはり、前立腺に相当する分泌腺の抽出物によって,無核精子の運動を誘導することができた。イニシャトリン類似のエンドペプチダ-ゼの存在が示唆された。
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