1991 Fiscal Year Annual Research Report
芸術活動における「心」と「身」ーマルブランシュ美学の可能性ー
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03610024
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
上倉 庸敬 大阪大学, 文学部, 助教授 (90115824)
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Keywords | マルブランシュ / 身体論 / 想像力 / 芸術 |
Research Abstract |
本年度はマルブランシュの想像力論を中心に考察をまとめようと試みた。それは主として『真理の探究』第二巻第二部と第三部に窺うことができる。想像力は、はじめ誤謬の源と擬せられているが、結論においては、真理を強化するものと考えられるに至るのである。人間は、想像力という脳の働きによって、魂の奥深くに刻み込まれた「痕跡」をたどる。その結果、想像力は何よりもまず、文明化された社会をもたらすために欠かせないものとされる。つまり、人間は互いに繋がり合うためには、身体的にも精神的にも、相互に似たところがなくてはならないが、だれもが有している脳という身体的なものが、とりあえずは、人間相互の結びつきを可能にするのである。たとえば憐愍の情。身体という動物にも見られる物質に存在する精神活動は、動物と類似の行動を人間に保証する。だが、それだけではない。動物が被る傷までも、人間は想像力によって自らの身体に作り出す。人間は想像力を働かせ、その傷を通して、我が身を強く請け負うが故に、他者をも我が身において引き受ける。このように想像力は、他者というよりは、それが表象する像そのものに注意を向けることによって、理性に基づいた愛以上に、緊密に人間同士を結び付ける。それは「脳の働き」であり、なおかつ、原罪の結果「神的な愛」も「愛そのもの」も損なった人間をして、他者に繋がりを架けさせるものである。こうした身体から精神への連続的な一体性は、デカルトの心身二元論を乗り超えようとするマルブランシュの著しい特色をなす。一般に、彼の想像力は、「諸観念の残した痕跡」が刻まれてある身体的な要素、すぐれて可塑的な身体の一部である。その想像力論は、精神的な遺産を引き継ぐ機能という、古典古代の医学的かつ神学的な見方の集大成というべきあると同時に、現代の身体論の新たな展開を示唆する有効性さえ見出すことができるだろう。
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