1991 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
03610197
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 貞夫 東京大学, 文学部, 教授 (20011322)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
橋場 弦 東京大学, 文学部, 助手 (10212135)
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Keywords | ギリシア / 民主主義 / 世代間対立 / 親子 / ポリス / 家族 / アテネ / アテナイ |
Research Abstract |
まず研究代表者伊藤は、1980年代の欧米を中心とした古代ギリシアの家族史研究の動向を、広範な研究文献の渉猟と緻密な史料の分析によって明らかにし、従来、公と私という二つの領域が整然と区別されていると考えられていたポリス社会のイメ-ジに疑問を投げかけ、双方が実は互いに入り組んだ社会こそがポリスであるとの知見に達した。 この基礎的研究を土台として、研究分担者橋場は、前420年代に実際に起こったアテネにおける世代間断絶という社会現象の具体的分析に取り組んだ。その結果として、この時代における老若の対立は、髪の毛のスタイル、おしゃれ、民会での弁論、政治的イデオロギ-、軍事制度に関する価値観、自然現象に対する解釈の仕方など、あらゆるレベルにおいて存在する事が判明した。 そしてこれらの対立の背景に存在するものは、実は、農本主義対消費主義(貨幣経済)、伝統的宗教観念対ソフィスト的無神論・自然哲学、実定法思想対自然法思想、および体制化した民主政に対するシンパシ-対それに対する嫌悪反抗・貴族政に対する憧れ、といった構図の価値観の対立であるという事がわかった。 かかる、経済思想・宗教思想・法思想などの諸局面における対立が、やがては、クレイステネスの改革以来約百年間続いてきたアテネ民主政という体制をめぐっての、保守・変革という政治的レベルにおける深刻な対利を招来するわけである。老人たちは自分達が重装歩兵や漕ぎ手として、血と汗を流して築き上げたアテネ帝国とペリクレスの民主政に誇りを持つ一方、当今の若者達がその繁栄の果実を只喰しているといって非難する。他方若者達は、デマゴ-グたちに盲従している父達を軽蔑するのである。
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