1992 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
03610197
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Research Institution | University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 貞夫 東京大学, 文学部, 教授 (20011322)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
橋場 弦 東京大学, 文学部, 助手 (10212135)
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Keywords | ギリシア / 民主主義 / 世代間対立 / 親子 / ポリス / 家族 / アテネ / アテナイ |
Research Abstract |
前年度に引続き、古典期アテネにおける世代間断絶の実証的研究を継続した。まず研究代表者伊藤は、前年度に公にした古代ギリシア家族史研究の近年に於ける研究動向を踏まえた上で、古典期アテネの家族(オイコス)が、ポリス共同体国家に於いて占めていた重要性と意義を、家族形態(個別家族か、複合家族か)、相続形態(均分相続)、遺言、ないし市民権との関わりで考察した。さらに、ポリス社会を構成している他の中間的な私的集団、即ちフラトリアとオイコスとの関係を考察した。そして、市民の家に於ける子供の地位が、伝統的な観念に於いては、ポリス市民権の正当なる後継者としての地位と重なる事が、ここで明らかにされた。 研究分担者橋場は、伊藤の基礎的研究を踏まえて、では、子供のあるべき姿、すなわち伝統的なポリス市民の家に於ける市民権継承者としての子供のあるべき姿と、前420年代のアテネにおける世代間断絶現象にみられる実際にあった子供の姿との間の距離を測定した。今年度は、中高年層と若年層との間の価値観の差異、或いは断絶が、なにゆえ生じたのか、という原因論に考察を及ぼした。その結果、この断絶ないし対立を、一種の階級対立とみるM.Ostwaldの説明は、一見説得力があるように見えながら、じつは致命的な欠陥を有しており、説明の仮説としての有効性を持たない事がわかった。すなわち、彼の仮説は、新旧二世代一般の対立を説明する事は出来ても、親子(特に父子)対立を説明する事は出来ない、なぜなら親子は普通同一の階級に属するものだからである。橋場は、むしろ対立の本質を父子関係の変化に求め、ペリクレスの死(それも息子との関係に苦しんでの死)と、ゼウス神の権威の失墜とを重ね合わせ、当時の父の権威を守る神観念の失効が、世代対立の本質的原因であるとの仮説を立てた。
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