1991 Fiscal Year Annual Research Report
楚辞の思想史的研究ー道家思想との関わりを中心にして
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03610231
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小南 一郎 京都大学, 人文科学研究所, 教授 (50027554)
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Keywords | 楚辞 / 道家思想 / 文学と思想との関わり |
Research Abstract |
楚辞文芸と道家思想との間に密接な関係があったであろうことは、例えば「載営魄」の語が、「老子」第十章に「載営魄抱一、能無難乎」とあると同時に、「楚辞」遠遊篇にも「載営魄而登霞兮、掩浮雲而上征」の句ず見えることからも知られる。 「楚辞」に属する諸作品を大きく前期と後期とに時代区分すると、その前期をなす、九歌や天問などの古い民間文芸としての様相を留めた作品群と、九章以下の新しい様式・内容による後期の作品群とに分けられる。離騒篇は、ちょうど両者の中間に位置して、楚辞文芸の頂点をかたち作っているのである。後期の楚辞文芸の特色は、屈原伝説を吸収することによって、個人的な感慨(それも特に不遇の感慨)を文学に定着することを可能にしたことにあろう。楚辞文芸が道家思想と密接な関わりを持つようになるのも、この後期楚辞文芸の中においてであった。 楚辞文芸が関わりを持った道家思想は、道家の様々な観念の中でも神仙思想的な傾向が強いものであった。その典型が遠遊篇である。神仙思想の中でも、特に精神の天上遊行の記述を中心とした、呪術的、宗教的な傾向を持つものであったと言えよう。これは、楚辞文芸の基礎にあった、楚の地域のシャマニズムの実修の中での、天上遊行の幼想を承けたものであったにちがいない。道家思想も南方の文化にその基盤を持っているとされる。楚辞も道家思想も、その最も深い基礎において通じあっていたのである。 こうした、神仙思想的な傾向の強い道家思想を継承していたのは、前漢時代、劉安を中心とした淮南國の思想界であった。実際の作者の比定には慎重であらねばならないが、劉安のもとにいた文人たちが作ったとされる作品が「楚辞」十七篇の中にいくつか留められているのも、理解しやすいところである。
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Research Products
(1 results)