1992 Fiscal Year Annual Research Report
楚辞の思想史的研究-道家思想との関わりを中心にして
Project/Area Number |
03610231
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小南 一郎 京都大学, 人文科学研究所, 教授 (50027554)
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Keywords | 楚辞 / 道家思想 / 馬王堆帛書 / 神仙思想 / 黄老思想 |
Research Abstract |
楚辞文芸に属する諸作品は、その様式の多様性から言っても、一人の作者(従来の考えかたでは屈原)の作とは考えられない。すなわち、楚辞の諸作品の間には、その成立について時期的な前後関係があり、離騒篇を真ん中に置いて、前期の楚辞作品群(九歌や天問篇がその中心である)と、後期の楚辞作品群とに区分されるのである。そのうち、後期楚辞作品群を特色付けるのは、作品の内容に“屈原伝説"的要素が浸透していることと、道家思想への接近とである。この研究では、特にそのうちでも、楚辞文芸と道家思想との関わりについて分析してきた。 馬王堆帛書の発見により、戦国末年から漢代初年にかけての道家思想(道家思想の中でも特に黄老思想)の様相が具体的に知られるようになった。また、後期楚辞作品群の中でも道家思想と最も関係の深いのは、遠遊篇である。この遠遊篇と馬王堆帛書資料とを重ね合わせて見るとき、当然ではあるが、一致する要素と一致しない要素とが見られる。両者の大きな違いは、馬王堆の資料が主として思想を表明するものであるのに対して、遠遊篇には、宗教的な要素が色濃く見られることである。遠遊篇の内容には、むしろ、後の道教を予見させるものすら含まれている。遠遊篇の主題である天上遊行の描写は、すでに離騒篇などでもその中核となっていたのではあるが、天上で遊行者が訪れる神々の世界の構造は大きく異なってしまっている。神々の世界の構造の変化に、離騒篇と遠遊篇との間の思想的な距離が典型的に表明されており、思想的な距離は時代的な隔たりを、そのまま現わすものであったのである。「史記」封禅書などが記録する、神仙思想の展開との関わりをも視点に入れた研究が今後の課題である。
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