1991 Fiscal Year Annual Research Report
中国現代文学者における「西洋文化」受容と「伝統文化」観に関する研究
Project/Area Number |
03610234
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
齋藤 敏康 立命館大学, 経済学部, 助教授 (90144047)
|
Keywords | 施蟄存 / 現代派 / モダニズム / 新感覚派 / 心理主義 / フロイディズム / 文学流派史観 |
Research Abstract |
30年代現代派作家とくに施蟄存における「伝統と西欧」といったテ-マの下に研究を行ってきた。 30年代後半には、相対立する政治的党派(国民党と共産党)においても、また社会文化的にも“民族的"なものへの回帰という大きな潮流が存在した。その中で施蟄存は、政治的には国民党、その文芸政策の遂行者である張道藩、王平陵らの文芸運動の枠内にあり、文学・歴史認識のレベルでは、広い意味で、漂実秋、林同清、雷海宗らの影響下にあった。換言すれば、西南連合大学、戦国策派、民族主義文学(政策)は抗戦期の施蟄存のバックグラウンドを成すものとして非常に重要である。如上の内容を91年8月、中国文芸研究会において『林同済歴史観とその影響』と題として報告した。更考究に加えて論文化を期したい。 中国における80年代以降の施蟄存文学研究の成果を批判的に検討しつつ、今日における研究課題を明確にすることが今ひとつの課題であった。この点では次のような知見を得た。すなわち、ここ10年来の流派文史観は「現代派」など埋れた文学的営為を再評価する方法として評価されるが、なお、それを内在的に究明するに至っていない。施蟄存について言えば、単に文学技法的に文壇に新頴をもたらしたというにとどまらず、その心理主義的な創作方法は、人間疎外的な時代の本質を認識し表現するために選び採られたものである。その方法が例えば、表層的なモダンな風俗の裏で夢延しつつあった植民地都市の精密的危機をどのレべルの深みにおいて認識しかつそれを文学的表現に変換しえているか、それを秤ることによって施蟄存の声価は定まるであろうと思われる。如上の検討と考察を論文にまとめており、3月中には発表する予定である。
|