Research Abstract |
本課題の光合成色素(クロロフィル・カロテノイド)から植物プランクトンの綱を推定するためには,綱に特有のカロテノイドの正確な同定と定量が必要であった。野外調査でえられる試料には,純粋培養系には見られない多くの分解生成物が混入しているため,当初HPLCによる分析が困難であったが,本研究を遂行する過程で,前年度までに,計算機プログラムの改良で野外調査試料に付いても解析が可能になった。本年度は,東京湾北東部に4定点を設け,夏期は毎月,冬季には隔月に,表層から低層まで約4m毎に4から5層で採水し,試水中のカロテノイド量をhplcの手法で測定し,植物プランクトン各綱に特有のカロテノイド量から,当海域での綱別存在量を推定した。また,一部の試料に付き,検鏡による植物プランクトンの同定を行い,本課題の方法の妥当性を検討した。当海域で出現頻度・量共に多かった珪藻は,Skeletonema costatum,Tharassiosira cf.binata,Nitzschia pugens,N.cf.multistriata等であった。調査期間中,'93年6月,9月にHeterosigma akashiwoによる赤潮が観測され,これに対応して,ラフィド藻綱に特有のカロテノイドの一つであるViolaxanthinが多量に検出された。'93年5月には,渦鞭毛藻のGonyaulax verior,Ceratium lineatum,C.fusus等による赤潮が観測され,この時は,渦鞭毛藻の特徴であるPeridininがカロテノイドの大部分を占めた。東京湾の試料中には,クリプト藻に特有なカロテノイドであるAloxanthinが検出され,その変化の様子は,微少なため検鏡では十分に同定できなかった微小鞭毛藻類の現存量の変化と良く対応した。通常,現場におけるクリプト藻の現存量は,同定が困難なため把握しにくいが,本方法により,定量が可能となり,本海域では多い時には,全藻類の1割以上になることが明かになった。以上の様に,本方法による,植物プランクトン綱別存在量の推定は,実際の海域に付いても非常に有効であることが明らかになった。
|