1992 Fiscal Year Annual Research Report
個体発生過程における昆虫視覚機能の可塑的発達に関する基礎的研究
Project/Area Number |
03640609
|
Research Institution | NAGASAKI UNIVERSITY |
Principal Investigator |
三村 珪一 長崎大学, 教養部, 教授 (20039754)
|
Keywords | 昆虫 / 視覚機能 / 可塑性 / 高速液体クロマトグラフ / GABA |
Research Abstract |
一連の昆虫(センチニクバエ)を材料とした行動実験や組織化学法によって、視覚機能の発現が、羽化後の視覚環境の影響を強く受けることを明らかにした(三村、1981〜1990)が、物質面では、前年度までに、視葉に含まれる生体アミン類やタンパク質、ペプチドに、そのような可塑的発達に関与するものがあることを見いだしている(三村、1991、1993)。これらの結果は、機能化が神経回路のシナプス伝達の変容によることを示唆するものである。 今年度は、直接、神経伝達物質を対象に分析した。神経回路の機能を複雑化し、高次の情報処理を可能にするのは、むしろ抑制物質のほうであると考えられるので、まず、抑制物質としてハエの脳に存在することが知られているガンマアミノ酪酸(GABA)を、高速液体クロマトグラフ-蛍光検出法によって分析した。明らかにされた知見は、以下のとおりである。 1.脳中心部のGABAは、視覚経験の有無による差は認められなかった。 2.視葉に含まれるGABAには、羽化後2日までと、6日目以後では差は認められなかったが、3日目から5日目の間では、明らかに視覚経験の有無による差が認められた。すなわち、常暗条件下のハエよりも、視覚経験のあったハエで、有意にGABA量が増えた。この3日目〜5日目の期間は、以前の行動実験から明らかにされたように、視覚機能の形成・発現のためには視覚経験が不可欠な時期であり、その時期に一致している。 以上のことから、視覚機能の形成・発現は、視葉におけるシナプス伝達機構の変容によることを証明することができた。
|