Research Abstract |
1.研究目的:我々は、自然発症高血圧ラット(SHR)で食塩摂取量を変化させた時,SHRの腎尿細管細胞の側底膜のα2受容体数が増加し(J Hypertens9:901-908,1991),視床下部と延髄のα1,α2受容体数にも変化が現われること(琉球医学会雑誌) 12(1):62-73,1991)を見いだした。本研究では,食塩負荷による高血圧発症が遺伝的に規定された実験モデルであるDahl-IwaiSラットを用い,高血圧発症期に腎と循環中枢のα受容体数および親和性に変化があるか否かを調ベる。さらに延髄の循環中枢へα受容体刺激薬および遮断薬を微量注入した際の血圧,脈拍数の変化を記録し,機能の変化の指標とする。もって食塩感受性は中枢および腎α受容体の変化を介して高血圧の発症に関与するのか否か検索する。 2.研究の進展状況:1)受容体測定実験:[3H]prazosin,[3H]rauwolsineを用いて,Dahl Sラットの脳(大脳皮質,視床下部,延髄)形質膜および腎尿細管側底膜のα1,α2受容体結合測定を終了し総括した。脳のオートラジオ・グラフィーは予備実験にて安定した像が得られず中止した,今後の検討課題である。2)循環中枢へのクロニジン微量注入実験を行った。 3.新たに得られた知見:Dahl-Iwai Sラットを4週令より6週令まで,あるいは,10週令まで高食塩食(8.0%NaCl)ならびに低食塩食(0.3%NaCl)下に飼育し,中枢ならびに腎のαレセプターに対する食塩負荷の影響を検討したところ,6週令のラットで高食塩負荷群において延髄のα2レセプター密度が著明な低値を示し,腎尿細管側底膜のα1およびα2レセプター密度が著明に高値を示した。10週令では低塩負荷群でも延髄のα2レセプター密度が減少して高塩負荷群との差は消失し,腎尿細管側底膜のα1,α2レセプター密度は有意に増加した。Dahl-IwaiSラットでは,高食塩負荷後早期に,延髄α2レセプターの減少と腎尿細管側底膜のα1,α2レセプターを介し,交感神経活動の亢進とNa貯留の増加が示唆された。これらの機序が,食塩負荷による血圧上昇に寄与すると思われる(要旨を,14th Scientific Meeting of the International Society of Hypertension(Madrid)で発表した)。 6週令から10-14日にわたって高食塩食,あるいは低食塩食で飼育した後に,ウレタン麻酔下に延髄腹外側野への薬物微量注入実験を行った。吻側部への注入では,Dahl S,Rラットとも食塩負荷の有無によらず,常に血圧の低下と脈拍数の減少を惹起した。しかし,α2受容体遮断薬のSK&F86466の注入に対しては,血圧,脈拍とも変化を示さなかった。一方,延髄腹外側野尾側部への注入に対しては,持続的な昇圧もしくは一過性の昇圧に引き続く降圧反応が認められ,同部へのSK3F86466の注入は明らかな降圧を惹起した。以上より,延髄腹外側野尾側部ではα2受容体を介する内因性の機序が,局所の心血管ニューロンの活動を緊張性に抑制していると考えられた。
|