1991 Fiscal Year Annual Research Report
中世美術における「図像構想者」の役割に関する萌芽的研究
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03801006
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
西野 嘉章 弘前大学, 人文学部, 助教授 (20172679)
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Keywords | 宗教美術 / 図像学 / ニコラ・フロマン / アヴィニヨン / ラザロ / ピウス二世 / イコノロジ- / 祭壇画 |
Research Abstract |
本年度の研究は、十五世紀アヴィニョン派において主要な役割を果たした画家ニコラ・フロマンと、彼の描いた『ラザロの蘇生の祭壇画』(フィレンツェ、ウフィツィ美術館)の図像研究に費やされた。この画家については一九三〇年代に二冊の小型の個別研究書が刊行され、さらに近年、出自に関する論考が公表されているものの、包括的な研究は皆無であり、その意味で、一九八八年の拙論「ニコラ・フロマンの『燃える柴の祭壇画』」を補完する本年度の研究は、フロマンの画家論・作品論としてもっとも総合的な成果をなしていると言えよう。 とくに、研究の中核をなすラザロ研究においては、「図像構想」の霊感源についてまったく新しい知見が得られた。この祭壇画では使徒ペテロに対して特段の配慮がなされている(中央パネルでは、蘇生者ラザロの戒めを解くという重要な役目が割り振られているし、また、右翼画では、聖餐式、キリスト教共同体、公会議など多義的な寓意的意味を含み持つ会食場面を司っている)が、それは注文主であるイタリア人高位聖職者が公会議至上主義から教皇権至上主義へ転向した教皇ピウス二世の取り巻きの一人であり、教皇が一四六一年一月に発布した大勅書「エクセクラビリス」の内容を図像に反映させようとしたためである。図像構想と教会史的出来事とのかかる具体的な呼応から、制作年を六一年一月から六二年五月のあいだに限定し得るばかりでなく、当時の宗教美術がいかに「図像構想者」の意図に縛られていたかという事実も如実に示されるのである。
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[Publications] 西野 嘉章: "画家ニコラ・フロマン" 文経論叢(弘前大学人文学部). 27. (1992)
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[Publications] 未定: "高階 秀爾.先生退官記念論文集" 美術出版社, 760 (1992)