Research Abstract |
従来,マングロ-ブの組織培養に成功した研究は皆無であった。その理由はマングロ-ブの芽にある生長点が通常の植物にくらべて小さいこと,根端の生長点も小さくかつ潮間帯の泥中にあるために微生物の汚染度が高く,生長点培養が困難であったことが理由にあげられる。しかも種子は樹上で発芽するために,種子からも培養細胞を得るのが困難であった。本研究では,芽,根端の成長点について,先ず細胞培養を試みたが,従来と同様に成功しなかった。その原因には,生長点の分裂組織が小さく,移植後直ちに壊死するか,微生物の汚染を回避するための殺菌操作が激烈で,分裂組織を含む周囲の細胞が壊死すること,が理由としてあげられる。そこで次に,マングロ-ブの特殊な種子の繁殖形態に注目し,培養細胞の誘導を試みた。マングロ-ブの種子は樹上で発芽し,10〜20cmの大きさの幼植物(以下propaguleとする)になるまで母樹から栄養を受け取り生長する。この根端部分は表皮が厚く,過激な殺菌操作にも耐えられる。propaguleからカルスを誘導する着想を得,先ず顕微鏡観察を行ない,propaguleの根端に当たる部分に多数の側根の生長点が存在することを確認した。カルス誘導の供試材料は西表島に自生するR.stylosa,B.gymnorrhizaおよびK.candelのpropaguleで,1992年2回現地で樹上から採集したものを用いた。propaguleをエタノ-ル,塩化ベンザルコニウム,次亜塩素酸ソ-ダの順に殺菌処理し,2〜3mm厚のディスクに切りわけ切断面を寒天培地に置床した。寒天培地にはLS培地を用い,ホルモンは2,4ーDとkinetineもしくはBAPとをそれぞれ5×10(ー5,ー6,ー7M)の濃度で組合せた。カルスの誘導を確認したホルモンの組合せは,2,4ーDのー5,ー6Mとkinetineのー6Mであった。他の組合せではカルスが認められなかった。この誘導実験は合計5回繰り返し,十分な再現性を持ち,細胞塊は速やかに増殖することを確認した。
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