2003 Fiscal Year Annual Research Report
「満洲経験」の歴史社会学―中国東北地区における被植民者の記憶の政治学
Project/Area Number |
03J04522
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
坂部 晶子 京都大学, 大学院・人間・環境学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 中国東北 / 満洲 / 記憶 / 植民地 / 万人坑 / 博物館 / コメモレイション |
Research Abstract |
「中国東北地区における「満洲」にかんする記憶の表象-コメモレイション施設の展示をとおして-」 本研究の目的は、かつて「満洲国」というかたちで日本による植民地支配とそれにたいする抗日戦争を経験した中国東北社会が、過去の戦争・植民地という現実をどのように解釈し記憶しているのかを解明し、その集合的記憶の諸相を示すことにある。具体的な論証は、当地にある植民地期を主題としたコメモレイションの施設にたいするフィールドワークとインタビューをとおした調査にもとづき、そのコメモレイションの形式を時代によって三種類に分類し、その変遷を分析する。対象とした施設は二一ヶ所である。 第一期(一九四〇年代末から六〇年代半ば)には抗日烈士の墓という形式の記念施設が多数建設された。これは、植民地支配下における価値秩序を転換し、新たな国民統合の象徴として機能した。第二期(一九六〇年代半ばから七〇年代)には、植民地支配下での虐殺跡地、強制労働による死亡者の死体遺棄場の記念化が行われた。これらの施設は「万人坑」と呼ばれ、それによって植民地支配下での巨大な被害が可視化されていった。第三期(一九八〇年代以降)には、「満洲国」の具体的な断面を主題とした博物館が多数作られていく。ことでの特徴は、植民地支配の歴史を、具体的な事物そのままではなく、それらをとおしてひとつのストーリーとして再構成的に展示するその展示方法にある。 長期的なスパンでコメモレイションの形式を追いかけていくことで、東北社会における過去の現実を解釈するモードの変化をとらえることができる。それは、殉死者や犠牲者を媒介とした人格的なモードから、歴史のストーリーそのものを記念の対象とする、非人格的なモードへの変化であり、このような中国東北社会における記念化の形式、モードの変遷は「ミュージアム」という近代的知の制度の一つのあり方とも対応している。
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