Research Abstract |
本研究は,農地土壌および都市地盤における水分・肥料成分および汚染物質の移動方向を把握し,当該物質の輸送を集約的に制御することによって,農地土壌環境および都市地盤環境を改良することを目的とした基礎的研究として位置付けられる。土壌中を移動する物質の輸送方向とその輸送量を測定するための理論をもとに,五極子熱パルスセンサー(以下,QPHPセンサーと呼ぶ)を製作して地盤中を移動する物質の輸送ベクトルを同定することを第1の目的とする。また,粒径の大きい土質の層(粗材料層)と粒径の小さい土質の層(細材料層)が複数の傾斜層として土層中に存在する条件(以下,多重傾斜成層土層と呼ぶ)において,この土層構造が土壌水分の輸送に及ぼす影響を調査し,多重傾斜成層土層中の水分輸送動態を詳細に解明することを第2の目的とする。 2次元流れの場において用いるQPHPセンサーを新規に開発し,温度計測値から熱物性と流速ベクトルを導く手順を明らかにした。均一な砂試料にセンサーをセットした一定水流場において較正し,多孔体全体の熱物性(温度伝導率,体形熱容量,熱伝導率)が誤差10%以内の精度で測定されること,および,多孔体中の水移動速度べクトル(流速と流れの向き)が,流速が5×10^<-5>m/s以上のとき誤差10%以内の精度で測定されることを示し,第1の目的を達成した。 細粒砂の中に粗粒砂の薄い層が1層ならびに3層ある乾砂互層を,鋳物砂と石英砂を供試砂として透明容器内に造成してQPHPセンサー7〜8個を適宜の位置に配置し,容器ごと水平(0°)または3.8°,7.6°,11.3°傾けて,上面から一定流量の水を供給し,浸潤前線位置の目視観察およびQPHPセンサーによる水流速ベクトル計測を定期的に実施した。境界面の傾斜角が増すにつれて,粗粒砂上面に沿う集積型選択水流が増加し,粗粒層に浸入する水量が減ずることを確認した。QPHPセンサーにより,浸潤前線の到達が検知され,また水流速ベクトルが定期的に測定され,地中水流場の詳細情報が得られることが示され,第2の目的を達成した。以上の結果は,従来視察に頼っていた多孔体中の2次元水流の観測が,開発したQPHPセンサーにより,水流が在る状態のままで熱特性および水移動速度ベクトルの分布場として測定されることを示しており,かつ,傾斜した互層における水移動の特徴を明らかにしている。これらは新知見であり,平地や傾斜地における地中水流の様相を遠隔測定し,研究する基礎をなすものである。 なお,平成15年(2003年)5月に開催された計測自動制御学会東北支部研究集会において,発表題目「熱トレーサ法による多孔質物体中の二次元流体移動速度ベクトルおよび熱物性の同時計測法について」の論文講演発表に対して優秀発表奨励賞を授与され表彰を受けた。
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