2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
03J10279
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
榎 一江 東京大学, 社会科学研究所, 特別研究員(PD)
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Keywords | 歴史 / 製糸業 / 労務管理 / 工女 / 教育 / 労働 |
Research Abstract |
本研究の目的は、日本資本主義の発展を底辺で支えた女子労働の再検討を行うことにある。具体的には、農村社会との密接な関係を基盤として展開した「優等糸」製糸経営のあり方に着目し、その代表的存在である郡是製糸株式会社の経営・労務管理を主な研究対象として、そこでの女子労働のあり方を実証的に検討する。 平成15年度は、同社経営資料の収集を行うとともに、各地に点在した「優等糸」製糸経営の比較検討を行うための予備作業として、全国的な経営資料の残存状況を調査した。その結果、のちに郡是製糸に買収される愛媛県高畠製糸場の経営資料は、巨大化する製糸経営を地方中小経営の側から照射する格好の素材であることが判明した。こうした経営資料の発掘・調査は、「優等糸」製糸経営の具体的な経営・労務管理のあり方を地域や経営規模の差異に留意しながら解明するために不可欠の作業であり、利用可能な資料を最大限に活用するため、データベースの作成を行った。また、製糸経営内部における労務管理の実態を解明するため、戦前期の製糸工場で教婦や教育係として直接工女らを管理した女子職員層への接触を試み、インタビューを通じて貴重な証言を得た。今年度実施した基礎作業の積み重ねにより、「優等糸」製糸経営の実像が明らかになりつつある。その成果は、更なる検討の上、次年度に公表する予定である。 なお、近代日本における手工教育の歴史を解明した研究書の書評において、製糸業をはじめとする日本のものづくりの伝統を形成した初等教育段階での手工教育について検討を加えた。教育史など他分野の成果を取り入れることによって、近代日本の女子労働に関する学際的な研究を進めることが、より緊要な課題であるとの知見を得た。今後の研究に生かしたい。
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