2004 Fiscal Year Annual Research Report
想起における気分一致効果と気分不一致効果の統合-自己知識の構造という観点から-
Project/Area Number |
03J11510
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
榊 美知子 東京大学, 大学院・教育学研究科, 日本学術振興会特別研究員
|
Keywords | 自己知識 / 自伝的記憶 / 感情 / 気分一致効果 / 気分不一致効果 / 自己概念 / 感情制御 |
Research Abstract |
現代はストレス社会と言われ,人々はしばしばストレスフルな出来事に直面し,不快感情を体験する.しかし,私たちはこうした不快感情をうまく制御できるとは限らない.不快気分時に快記憶を積極的に想起し,悪循環を回避できる場合もあれば,「不快気分時には,不快経験ばかりを想起し,それにより一層不快気分を喚起される」という悪循環に陥ってしまうこともあるだろう.このように,「感情と一致する情報が処理されやすい」という気分一致効果は感情制御を阻害するのに対して,「気分と逆の情報を処理しやすい」という気分不一致効果は感情制御を促進するといえる. 本研究は,感情制御の成否を分ける気分一致効果と気分不一致効果に着目し,従来の研究では考慮されてこなかった自己知識の構造という認知的要因によって2つの現象を統合的に説明する枠組みを提唱することを目的としている.こうした目的を達成するため,本年度は以下の2点について検討を行った.第一に,快記憶の想起と感情制御の関連についての検討が挙げられる.特に,快記憶の性質を詳細に検討し,「快記憶の中でも,個人的重要度が高い記憶ほど感情制御に効果がある」ことを実証的に明らかにした(榊,印刷中).第二に,自己知識の構造の重要性を示すため,自己知識構造の個人差と気分不一致効果の関連を検討した(Sasaki,2004).その結果,「自己知識が複雑に構造化されている人は,単純な構造を持つ人に比べて,気分不一致効果を利用できるのに対して,自己知識が単純な構造を持つ人は,感情制御への動機を与えられても,気分不一致効果を利用できないこと」が示された.以上の成果より,「自伝的記憶の想起が感情制御に大きな寄与を与えること」,「記憶を感情制御に利用できるかは,個人の自己知識構造に依存していること」が示され,感情制御への大きな示唆が得られたと言えるだろう.これらの研究は国内外の学会,学術雑誌において発表された.
|