Research Abstract |
本研究は,コミュニケーションの必要な課題状況(問いかけ,命令,依頼など)におかれた認知者が,他者の顔に含まれる種々の感性情報をどのように認識しているのか,さらにその結果として相手に関するどのような記憶表象を形成するのかを検討し,感性コミュニケーションにおける顔の役割を多角的に分析することを目的とする。発信者が発した情報をある媒介を介して受信者(認知者)が受け取るという継時的過程を想定すると,発信者が顔,表情を介してどのような情報をどのように発信するか,その情報が認知者の発話行動,表出行動にどのような影響を与えるかが問題となる。そこで本年度は実験に必要な表情刺激の収集をかねて,発信者(表情の表出者)が意図的に特定の情動を表出するとき,その表情が他者にどのような情報を提供しているか,またその発信に影響を与える要因として表出者の性別,表出の状況がどのような効果をもっているかを検討した。25名の大学生男女が表出者として参加した。表出する表情として,幸福,悲しみ,驚き,怒り,嫌悪,恐れ,軽蔑,中性を用いた。表出者はカメラに向って座り,延長シャッターレリーズを持って表出した表情を自分で撮影し,1枚撮影するごとにどの程度うまく表出できたかを10段階で評定した。また,撮影は表出者のみが部屋にいる状況と実験者が表出者を見ている状況の2条件で行った。撮影された各表情写真について,2名の評定者が10尺度について7段階で評定した(中性を除く7表情,日常見る頻度,話しかけやすさ,好悪)。その結果,表出しやすい表情(幸福,驚き)としにくい表情(嫌悪,恐れ)があること,混同されやすい表情があること,表出しやすさについて表出者の性差がみられることなどが明らかとなった。また,他者がいない場合のほうが表情の表出が明瞭であった。この研究で収集された表情写真は,次の認知実験に用いられる予定である。
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