ヨーロッパの法発展におけるethnosとnatio

1993 Fiscal Year Annual Research Report

• Project/Area Number: 04301060
• Research Institution: Faculty of Law, Hokkaido University
• Principal Investigator: 石川 武 北海道大学, 名誉教授 (20000648)
• Co-Investigator(Kenkyū-buntansha): 石井 紫郎 東京大学, 大学院・法学政治学研究科, 教授 (00009797) ; 村上 淳一 桐蔭学園大学, 法学部, 教授 (80009795) ; 成瀬 治 成城大学, 文芸学部, 教授 (70011278) ; 山田 欣吾 共立女子大学, 国際文化学部, 教授 (70017523) ; 小菅 芳太郎 北海道大学, 法学部, 教授 (00000654)
• Keywords: ゲルマン人 / ナツィオン意識 / 部族 / バイエルン / 皇帝権 / 帝国国制 / 選挙侯 / ナチズム

Research Abstract

本年度は、昨年度に着手した様々な論点の研究を更に進めるとともに、研究領域を近代に広げ、特にドイツの「第三帝国」時代の法学における人種主義的要素の由来とその現実的な意義について研究を行った。そして研究のとりまとめを行うべく、合宿研究会により、総括討論を行った。まず、古代・初期中世については、とりわけバイエルン部族を中心として、「部族形成」に関するこれまでの研究史をレヴューし、そこにおける特徴的な思考様式についての認識を深めた。そして、「部族形式」が、ローマの属州制度の存続など、政治的な要素に多くを負っている事、形成された「部族」集団もエスニックには極めて多様な要素からなる事、更にこのような点は、他の「部族」についても多かれ少なかれ当てはまる事が確認された。中世中期については、フランスとドイツの国制史の比較研究によって、この時代における「ナツィオン」の成立として論じられてきた問題が、王権を中心とする「国家形成」の部分問題である事を明らかにしたうえで、ドイツにおいては、普遍主義的権力たる皇帝権を担ったドイツ王権においては、帝権委譲説的な観念が支配的だった事を明らかにした。このような、古い帝国・帝権を枠組みとする「ナツィオン」意識は、中世後期、さらには近世においても維持された。中世後期には、皇帝権と並んで選挙侯による選挙制がドイツ・ナツィオン意識の核となっていた事が明らかにされた。また、中世法学がナツィオンとその外枠となる政治共同体の一体性の意識の強調とそれを価値的に高めるに当たって大きな役割をはたした事を明らかにした。近代については、「第三帝国」の時代の人種主義的法思想が、通俗化されたゲルマン法学に多くを負っている事を確認するとともに、ラーレンツを例として、人種主義は実際には決断主義と結びついており、前者は必ずしもナチズムの法の内容を規定しているわけではない事が明らかにされた。

Research Products

• [Publications] 石川武: "中世法と近代法" 石部・村上編『ドイツ近代法史辞典』(東京大学出版会). (発表予定). (1994)
• [Publications] 林信夫: "G.I.ルッツァット『ギリシア・ラテン法律碑文学』VI" 専修法学論集. 58号. 231-252 (1993)
• [Publications] 林信夫: "〈共訳〉テオドシウス法典(Codex Theodosianus)(1)" 専修法学論集. 59号. 151-170 (1993)
• [Publications] 林信夫: "〈共訳〉テオドシウス法典(Codex Theodosianus)(2)" 専修法学論集. 60号. 239-254 (1994)
• [Publications] 平城照介: "(書評)世良晃志郎『西洋中世法の理念と現実』" 法制史研究. 42巻. 330-337 (1993)
• [Publications] 佐藤彰一: "ヨーロッパ初期国家の教会性と世俗性" 創文. 345号. 7-10 (1993)
• [Publications] 西川洋一: "(書評)若曽根健治『Nocivus Terraeの概念について--12・13世紀の立法例から--(1)(2)(3完)』" 法制史研究. 42巻. 349-354 (1993)
• [Publications] 西川洋一: "シチーリア王国勅法集成の法源論" 海老原明夫編『法の近代とポストモダン』(東京大学出版会). 23-56 (1993)
• [Publications] 西川洋一: "(翻訳)ディーステルカンプ「ドイツにおける法治国思想の成立と実現に対する帝国最高法院の寄与」" 海老原編『法の近代とポストモダン』(東京大学出版会). 57-86 (1993)
• [Publications] 西川洋一: "「中世ドイツの国制」「ゲルマン法学・法史学・国制史学」" 石部・村上編『ドイツ近代法史辞典』(東京大学出版会). (発表予定). (1994)
• [Publications] 山田欣吾: "ドイツ史とドイツ民族" 創文. 346号. 1-6 (1993)
• [Publications] 山田欣吾: "18世紀の「ドイツ民族」?--事典・辞典類の記述を素材として--" 一橋論叢. 110巻4号. 131-146 (1993)
• [Publications] 山田欣吾: "歴史の中の民族--ドイツの場合--" 如水会会報. 765号. 46-50 (1994)
• [Publications] 田口正樹: "中世後期ドイツの国王裁判所--最近の研究によるその再評価について--" 北大法学論集. 44巻4号. 135-157 (1993)
• [Publications] 田口正樹: "15世紀初頭ドイツ国王宮廷裁判所の手続(史料紹介)" 北大法学論集. 44巻6号(発表予定). (1994)
• [Publications] 成瀬治: "神聖ローマ帝国の夢と現実" 国際交流. 61号. 42-49 (1993)
• [Publications] 成瀬治: "絶対主義時代の租税観" 成城文芸 40年記念号. (発表予定). (1994)
• [Publications] 成瀬治: "身分制" 石部・村上編『ドイツ近代法史辞典』(東京大学出版会). (発表予定). (1994)
• [Publications] 村上淳一: "ポストモダンの法理論" 『岩波講座・社会科学の方法6』(岩波書店). 261-294 (1993)
• [Publications] 村上淳一: "(訳)カール-ハインツ・ラデーア「規制主義と経済分析主義を超えて--環境法の新しい課題」" 『岩波講座・社会科学の方法6』(岩波書店). 89-128 (1993)
• [Publications] 村上淳一: "議論と自己修正--ルーマン/ハーバーマス論争をめぐって" 海老原編『法の近代とポストモダン』(東京大学出版会). 425-443 (1993)
• [Publications] 村上淳一: "「市民社会と市民法」「所有権」「経済法」「現代法」" 石部・村上編『ドイツ近代法史辞典』(東京大学出版会). (発表予定). (1994)
• [Publications] 小川浩三: "(翻訳)ハンス・アンクム「パピニアーヌス、意味不明な法律家か」" 北大法学論集. 44巻2号. 1-45 (1993)
• [Publications] 小川浩三: "アウグスティーヌスのconsuetudo universae ecclesiaeについて" 海老原編『法の近代とポストモダン』(東京大学出版会). 3-22 (1993)
• [Publications] 小川浩三: "「ローマ法の継受」「契約」" 石部・村上編『ドイツ近代法史辞典』(東京大学出版会). (発表予定). (1994)
• [Publications] 石部雅亮: "18世紀ドイツにおける「家長権」の観念について" 比較家族史学会編『家と家父長制』(早稲田大学出版部). 208-232 (1993)
• [Publications] 石部雅亮: "歴史的比較法的考察の対象としての調停制度" 石部・松本博之編『法の実現と手続』(信山社). 299-321 (1993)
• [Publications] 石部雅亮: "「実務法学」(Praktische Rechtsgelehrsamkeit)について" 海老原編『法の近代とポストモダン』(東京大学出版会). 137-166 (1993)
• [Publications] 石部雅亮: "いわゆる法典論争の再検討--「サヴィニーと歴史法学」研究(1)--" 法学雑誌. 39巻3・4号. 445-467 (1993)
• [Publications] 石部雅亮: "ドイツ法学における理論と実践" 法哲学年報1992『実践理性と法』(有斐閣). 86-101 (1993)
• [Publications] 石部雅亮: "「自然法的諸法典」「法人格・団体法」「家族法・相続法」「法学教育・法曹養成・法律家」" 石部・村上編『ドイツ近代法史辞典』(東京大学出版会). (発表予定). (1994)
• [Publications] 和田卓朗: "古典法とその伝統--日本法史の国際環境--" 法学雑誌. (発表予定). (1994)
• [Publications] 和田卓朗: "〈訳〉カール・クレッシェル「ヨーロッパ法史における普通法と局地法」" 石部編『法の国際化への道』(信山社). (1994)
• [Publications] 和田卓朗: "「紀律化と刑法」「租税」" 石部・村上編『ドイツ近代法史辞典』(東京大学出版会). (発表予定). (1994)
• [Publications] 和仁陽: "サヴィニー・ギュンダーローデ・クライストー-美のモデルネ対法のモデルネ?" 海老原編『法の近代とポストモダン』(東京大学出版会). 221-243 (1993)
• [Publications] WANI,Akira: "(書評)H.-G.Flickinger:Die Autonomie des Politischen" Zeitschrift fur Neuere Rechtsgeschichte. Bd.15. 119-120 (1993)
• [Publications] WANI,Akira: "(書評)R.Mehring:Pathetisches Denken;B.Ruthers:Carl Schmitt im Dritten Reich(2.Aufl.)" Zeitschrift fur Neuere Rechtsgeschichte. Bd.15. 252-255 (1993)
• [Publications] WANI,Akira: "(書評)C.Steenstrup:A History of Law in Japan until 1868(in German language)" Ius Commune. XX. 322-325 (1993)
• [Publications] 和仁陽: "私法社会としての市民社会?--その回帰!?" 日本ドイツ学会編『ドイツ研究』(成文堂). 17巻. 20-25 (1993)
• [Publications] 和仁陽: "「基本権」" 石部・村上編『ドイツ近代法史辞典』(東京大学出版会). (発表予定). (1994)
• [Publications] 石部雅亮・村上淳一: "ドイツ近代法史辞典" 東京大学出版会, (1994)