Research Abstract |
非周期性高分子の電子状態を,高分子の重合反応の道筋になぞらって求めていく,いわゆる理論的重合法を確立し,多くの興味ある不規則性合成高分子,天然高分子に応用するのが,本研究の目的である。この理論的重合法は,すでに電子状態が求められているオリゴマーの末端に,モノマーを一つ付加して,高分子鎖が1ユニットだけ延長したオリゴマーの電子状態を求めていく方法である。このためには,オリゴマーの分子軌道をユニタリー変換して,攻撃してくるモノマーの分子軌道と相互作用する局在化軌道と,相互作用しない局在化軌道に分類する。そして,相互作用する局在化軌道のみ,モノマーの分子軌道とともに固有値問題を求めていくので,高分子がいくら長くなっても,固有値問題の次数が,ほぼ一定の値になるので,計算できるようになる。 これまで,この方法をわれわれは,拡張ヒュッケル法のレベルでおこなってきたが,本年は,ab initio法によっても取り扱えるように,プログラミングをおこなった。ab initio法では,電子間のクーロン反発,電子一核間のクーロン引力をあらわに考慮して計算するので,かなり遠距離まで考慮しないとよい結果を与えないことがわかった。そこで,計算過程であらわれるFockの行列要素を計算する際に,近距離の積分は正確な公式により求めたが,遠距離の積分はMulliken近似を用いて計算した。こうすることによって,遠距離力の寄与を取り入れて,計算時間を飛躍的に短くしながら,かなりよい精度で結果が得られることを,テストとして採用したモデル系で見い出した。今後は,モデル系ではなく,実際の系に適用していく予定である。
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