Research Abstract |
本年度は,言語音聴取における日本語の特殊性について検討するため「日本人にとって英語の聞き取りはなぜ難しいのか」の問題を中心に,主に聴覚実験を行って調べた。その結果,以下の新らしい知見を得た。 1.日本語と英語の母音知覚の関係を調べるため,日本人の大学生を被験者として,英語母音|i|,|I|,|ε|,|〓|,|a|の同定実験を行った。その結果,日本人の場合|i|,|ε|,|a|はほぼ日本語のイ,エ,アに対応するが,|I|はイとエの中間に,|〓|はエとアの中間にあることがわかった。 2.英語では典型的であっても日本語としては典型的ではない母音を日本人が聞く場合は,音韻についての短期記憶の保持方法も異なると考えられる。そこで,日本人を被験者にして英語の母音についての弁別実験を,AX法により行った。用いた刺激音対は|i|-|I|,|I|-|ε|,|ε|-|〓|,|〓|-|a|の連続体上の母音である。その結果,(1)日本語の母音イ,エ,アに近い英語母音(|i|,|e|,|a|)の付近では,刺激提示順序効果が生じることが認められた.(2)日本語の母音にないカテゴリ|I|の付近では,刺激提示順序効果は認められなかった.(3)刺激提示順序効果は,より典型的な母音が後置される方が弁別の成績が良くなるように生じた,等の点が認められた。 以上の実験結果から,日本人が英語母音の弁別を行う場合,日本語母音に近い場合には容易にカテゴリ化ができカテゴリ名を記憶(phonetic memory)するので,アメリカ人の場合と同様に刺激提示順序効果が生じやすいと考えられる。しかし日本語にはない母音の場合には,韻質についての記憶(auditory memory)に基づいて弁別を行うので,刺激提示順序効果は生じにくいと考えられる。長い間の学習により,母語については母音のプロトタイプが形成され,それと常に照合される為であろう。
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