Research Abstract |
「被差別者のアイデンティティ問題」のテーマで,被差別部落の若者たち,在日韓国・朝鮮人の若者たちを主たる対象に,聞き取り調査を実施してきた。今回の調査では,とくに,「日本国籍」となった在日韓国・朝鮮人の若者のアイデンティティをめぐる問題で,新たな知見が得られた。 一般に,「帰化」や「渉外婚姻」が増えて,「日本国籍」者が増加することで,定住外国人問題は解決していくかの観念がある。だが,実際に「日本国籍」者となった当事者からの聞き取りによれば,“日本国籍になっても日本人じゃない"というアイデンティティ・レベルでの問題が厳然として残る。それは,単に,彼ら/彼女らの主観的な思い込みの問題でなく,日本人サイドの対応の仕方に問題の根はある。 たとえば,女性A(28歳,3世)は,日本人男性と結婚し,「帰化」により「日本国籍」となった。だが,彼女は現在のセルフ・アイデンティティを,“日本人になったわけじゃない。韓国系日本人になったのかな"と表現する。その背後には,「帰化」手続きでの,法務局職員の嫌がらせに近い対応への反撥等がある。女性B(25歳,父が在日韓国人2世,母が日本人)は,1984年の国籍法の改正に伴う経過措置により届出により「日本国籍」を取得した。だが,「日本国籍」取得後のほうが,“自分は日本人ではないんだ"という思いが強くなっていると語る。その背後には,日本人男性から求婚されながら,自分の出自を打ち明けたところ,即座に態度を翻された,等々の体験がある。むしろ,彼女の場合,「日本国籍」になってから,被差別の体験を何度もしているのだ。 日本社会全体が,民族的出自等,“異質な"要素をそなえた人たちを忌避し,排除していく社会意識を根本的に変革しえないかぎり,問題の解決は遠い。
|