1993 Fiscal Year Annual Research Report
フランス啓蒙主義時代の文学における「幸福」とその崩壊
Project/Area Number |
04610288
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Research Institution | Tokyo Uniersity of foreign studies |
Principal Investigator |
水林 章 東京外国語大学, 外国語学部, 助教授 (80183630)
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Keywords | 文明化の過程 / 書簡体(小説) / リベルタン / 恋愛 / 結婚 / 家族(近代家族) / ミシェル・フーコー / ディシプリン |
Research Abstract |
平成5年度の研究は、ほぼ当初の予定どおりに進行したと言える。 研究内容は、大きく二つに分かれる。一つは、ジャン=ジャック・ルソーの小説『新エロイーズ』を、人間にとって何が幸福なのかという問いへの解答として読み解くことであり、いま一つは、そのようにして、構築された「幸福」に対して、後の歴史がどのような回答を寄せたかを、ゲーテとバルザックの作品をとおして検討することであった。 第一の課題の、『新エロイーズ』の解読は、予定どおり、4つの視点からなされた。第一は、小説の形式的特徴の持つ意味を問うことであった。『新エロイーズ』はが書簡体という衣装をまとっていることの意味を歴史的に考察したわけである。第二は、作品における恋愛と結婚の主題を追求することであった。『新エロイーズ』では、貴族的な恋愛観が否定され、市民的な家族が自然の名のもとに正当化されていることが明らかにされた。第三は、『新エロイーズ』における場所の意味作用という問題が考察された。そこでは、主人公の初期の匿名性と後の仮名による登場の意味が、作品空間における〈文明〉と〈自然〉との係わりにおいて論じられた。『新エロイーズ』を読み解く第四の、そして最後の視点は、結婚によって現出する家族ないしオイコスとしてのクララン(ヴォルマール夫妻が主宰する家族共同体)が、なにゆえ一つの反市民社会と称しうるものかを明らかにすることであった。 次に、第二の課題(ゲーテとバルザックによる回答)についてであるが、この点に関しては、ゲーテの『若きヴェルテルの悩み』とバルザックの『三十女』を、『新エロイーズ』への意識的な回答として位置づけ、そこにルソーによって構想された家族的=オイコス的構造に根ざした幸福の徹底的な破壊が書き込まれていることを明らかにすることが目指された。一定の説得力を持つ議論が展開できたと思っている。
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