1992 Fiscal Year Annual Research Report
近世における中国・朝鮮・日本三国の〈西遊記〉演劇の比較研究
Project/Area Number |
04610307
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
磯部 彰 富山大学, 人文学部, 助教授 (90143841)
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Keywords | 武打もの / 清内府劇 / 江流記 / 朱鼎臣編本 / 仇討ち / 貞烈観 / 儒教倫理 / 三蔵宝巻 |
Research Abstract |
『西遊記』に取材した演劇劇目は多いが,その主要な作品は孫悟空などの武打ものである。その中で,清の内府劇であった『江流記』は玄奘とその母殷氏を主人公とした作品で,特異な色彩を放っている。『江流記』は明代の朱鼎臣編本の巻四及び楊東来先生批評西遊記劇によって組み直された作品で,上海図書館の内府鈔本一本あるのみである。本劇の特徴は,玄奘の仇討ちとともにその母殷氏の貞節が主要の眼目となっていて,『西遊記』の内容が十分に説き明かせなかった殷氏の貞節と烈婦ぶりを,編者の張照は儒教倫理に則って合理的に描き直し,夫を殺した水賊劉洪になにゆえに殷氏が従ったのかを貞という観念をたくみに取り入れて説明した。これに対し,同じテーマを扱った三蔵宝巻は,三蔵法師の孝道という側面を強調し,殷氏の貞節にはあまり言及しなかった。この両者の差違は,一方は皇帝や士大夫のための作品であり,いま一方は下層社会の人々の嗜好を反映したという,その文学的立場からの差異があるためであろうと考えられた。この点については,日本道教学会で口頭発表したが,それとともに日本における『五天竺』の三蔵法師の母子の所行とも対比しつつある。日本の場合は,仏教の転生と因果応報という考えに立って母殷氏の姿を描く面が強いようである。朝鮮の場合,『西遊記』の清刊本第九回の内容をそのまま受容したと見られ,この点のみを取り上げた作品はなく,むしろ唐太宗の入冥物語の方が強くアピールしたようであり,ハングル版唐太宗伝は,『西遊記』の一節であることが判明した。また,鳳山タール演劇に登場する獅子は,一に小説から,一に演劇の『昇平宝筏』からもたらされた場合もあり得ると,従来の予見に修正が加えられた。
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Research Products
(2 results)
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[Publications] 磯部 彰: "中国の影絵人形芝居とその人形" 「富山大学人文学部紀要」. 19. (1993)
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[Publications] 磯部 彰: "『西遊記』形成史の研究" 創文社, 560 (1993)