1993 Fiscal Year Annual Research Report
近世における中国・朝鮮・日本三国の〈西遊記〉演劇の比較研究
Project/Area Number |
04610307
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Research Institution | TOYAMA UNIVERSITY |
Principal Investigator |
磯部 彰 富山大学, 人文学部, 教授 (90143841)
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Keywords | 江流記 / 楊致和編本 / 図像 / 鳳山タルチュウム / 伍倫全備諺解 / 朝鮮 / 五天竺 / 西遊記図説 |
Research Abstract |
中国近世の明清時代以降,『西遊記』をめぐる演劇は,いずれも世徳堂刊本西遊記及び揚致和編本・朱鼎臣編本から主に作られる傾向となった。清代の内府演劇である『江流記』もその一つの例と言える。しかし,東アジアの諸国,とりわけ朝鮮王朝下の朝鮮両班や庶人,日本の武士や町人層の『西遊記』演劇,或は訳本『西遊記』は,中国のいかなる版本に依拠したかが不明であったので,明清の『西遊記』演劇の性格分析等が容易に行なえるのとは異なって,中国側からの作品輸入そして消化という分析経路が辿れなかった。そのため,朝鮮朝時代或は日本江戸時代に『西遊記』ハングル訳・通俗訳,鳳山タルチュウム・『五天竺』(人形浄瑠璃)というものの存在は容易に指摘し得ても,中国の場合のように小説と演劇との関係を示すことは困難であった。そこで,本研究では,世徳堂刊本と楊致和編本・朱鼎臣編本そして清白堂刊本,清代の西遊証道書の系譜を図像に着目して対比し,世徳堂本・清白堂本・楊致和本・朱鼎臣本・西遊証道書そしてそれより,朝鮮のハングル訳本そして鳳山タルチュウム,日本では世徳堂刊本以下の明刊本を輸入しつつ,西遊証道書を底本に通俗西遊記,それに拠って『五天竺』が作られたことを明らかにした。中国では,小説に拠りつつ自由裁量で演劇が地方劇として成立して行ったが,朝鮮では儒教理念のもと,原典重視と小説軽視とが重なって,清代,清朝廷からの奉答使のために小説の一部を借用した鳳山タルチュウム劇西遊記が生まれた。日本では,清代の西遊証道書を底本の一つにすえたが,仏教思想と中国語学力の不足から,改作西遊記とも言うべき『五天竺』を作った。朝鮮人が中国語学力を持ち,儒教を信奉して『伍倫全備諺解』で中国演劇の消化力を示したのとは好対照をなした。
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