1994 Fiscal Year Annual Research Report
アダム・スミス『国富論』第1-2篇の理論的実証的再構成
Project/Area Number |
04630006
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Research Institution | KYUSHU UNIVERSITY |
Principal Investigator |
高 哲男 九州大学, 経済学部, 教授 (90106790)
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Keywords | アダム・スミス / 地代論 / 価値尺度論 / 労働価値論 / 『国富論』 |
Research Abstract |
スミスは「等しい量の労働は、あらゆる時と所で、労働者にとって等しい価値をもつ」という『国富論』第1編第5章で定式化した普遍の価値尺度に立脚しつつ、通俗的な理解である労働の「真実(実質)価格」と「貨幣価格」との関係を、商品の「支配または購買しうる労働量」を基準に解きあかそうとした。「時と所」の違いをつうじてつねに等しい労働の価値を「直接」正確に知ることは技術的に不可能であるから、『国富論』の理論分析は「時と所」が同じ場合にのみ「正確」に一致しうる「貨幣価格」の世界と、「時と所」が異なる場合に他の何よりも「近似的に」一致しうる「穀物」価格の世界との区別と関連づけをつうじてなされることになった。 第1編の理論展開にそくしていえば、第6章の構成価格論と第7章の自然価格論とは、本質的に「時と所」が同じというきわめて厳しい理論的前提のもとで展開された抽象的な議論である。したがって、「労働・資材・地代」の自然率のそれぞれの動向を「時と所」を移動させつつ行われた第8章から第11章までの議論、つまり「富裕が進展しつつある社会」=分業が展開しつつある社会を念頭に置いてなされたスミスの議論についてみても、その分析の基礎におかれていた労働-穀物、労働-貨幣とのあいだの厳密な関連性を見逃してきた従来の研究では、真に内在的な理解など求むべくもなかった。もちろん労働の「穀物」価格は、その「真実(実質)価格」に「もっとも近似的に比例している」というだけのことであり、労働の「真実(実質)価格」は、あくまでも「生活必需品と便宜品」の全体であった。だからこそスミスは「生活必需品と便宜品」全体の相互の価値関係を、「労働の維持」という観点から投入-産出のエネルギー転換効率がもっとも高い「穀物」生産の進展を基礎に、それを他の土地生産物や「製造品」の生産にまで展開してゆくという形で理論的に解明しつつ具体的に確定する必要があり、これが第11章「地代について」の分析であった。
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Research Products
(1 results)