1992 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
04640637
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
加藤 雅啓 東京大学, 理学部, 助教授 (20093221)
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Keywords | 渓流沿い植物 / 比較形態 / ヤシャゼンマイ / 適応 / 幼胞子体 / 葉 |
Research Abstract |
シダ植物では胞子体と配偶体が独立に生活するために、両世代は独自の形態と適応を示す。降雨後増水した流水中に水没する渓流沿いシダ植物の両世代はその特殊環境に独特の適応戦略をとっていると考えられる。本研究では、配偶体と胞子体をつなぐ幼胞子体の形態と適応を調べた。日本各地で野外調査を行ったところ、渓流沿い種ヤシャゼンマイの成熟個体は渓流帯のみに、近緑の陸上種ゼンマイは渓流帯から離れた地上にのみに生育するが、ヤシャゼンマイの幼植物は渓流帯だけでなく地上にも、ゼンマイでは地上だけでなく渓流帯にも生育していることがわかった。したがって、ヤシャゼンマイは地上から、ゼンマイは渓流帯から胞子体世代の初期段階で淘汰されて消失すると考えられる。さらに両種の幼植物の形態を比較検討した。その結果、両植物は胞子体の初期段階で形態が明らかに異なり、各々の環境に適応していることがわかった。ヤシャゼンマイはゼンマイに比べて、比較的短い葉柄をもち、その表皮細胞壁は薄く、そのため葉柄は柔較になり水流低抗を小さくすることができると思われる。また単葉から複葉への切れ込みが早く起り、葉や羽片の基部は楔形で、葉身は葉柄に対して斜めに(狭い角度で)つき、第4葉以降では葉肉細胞は小型で葉肉組織の強度は大きいと推定され、葉表皮のクチワラ上ワックスの密度が高い。このような形態的なちがいによってヤシャゼンマイは渓流帯に、ゼンマイは地上部に適応し、胞子体の初期段階で住み分けが確立するようになると考えられる。
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