Research Abstract |
脂肪塞栓症候群における肺障害の発生機序を解明するため,アラキドン酸カスケードの律速酵素であるPhospholipaseA_2(PLA_2)を中心に種々の生化学的検討を行なった。 【実験方法】雑種成犬に同種粗脂質を注入し,血液ガス分析,胸部X線撮影,肺組織学的検索を施行。末梢血のPLA_2,アラキドン酸,アラキドン酸代謝物(ProstaglandinE_2,6-keto-prostaglandinF_1,thromboxaneB^2),リン脂質,リパーゼ,遊離脂肪酸(FFA),過酸化脂質を測定。肺胞洗浄液よりPLA_2,アラキドン酸,アラキドン酸代謝物,リン脂質,リパーゼ,FFAを測定。肺組織抽出液よりアラキドン酸,アラキドン酸代謝物,過酸化脂質を測定。非注入群と比較した。【結果と考察】注入群において,PaO_2の有意な低下,肺組織所見で多数の脂肪栓子を認め,脂肪塞栓症が発症していると判断した。末梢血では有意な変動は認めなかったが,肺胞洗浄液ではPLA_2他すべて有意に増加(P<0.05)しており,肺局所由来のPLA_2による肺サーフアクタントや肺血管壁の破壊を示すものと考えた。肺組織抽出液では,アラキドン酸の有意な低下,アラキドン酸代謝物の増加を認め,非生理的なアラキドン酸カスケードの発動を示唆するものであった。さらに組織中の過酸化脂質も増加しており,活性酸素による組織障害の存在を示すものと考えた。以上より,脂肪栓子の水解により生成された不飽和脂肪酸により活性酸素が出現してPLA_2を活性化させ,このPLA_2が肺サーフアクタントや細胞膜のリン脂質を破壊し,さらにアラキドン酸カスケードを発動させ肺障害を増悪させると考えられた。【結論】脂肪塞栓症候群の肺障害発生には,PLA_2が強く関与しているのではないかと考えられた。
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