Research Abstract |
辺縁性歯周炎の直接原因は,歯肉縁下細菌叢であり,中でも歯周病原性菌といわれるいくつかの嫌気性菌の重要性が広く認められている。歯周炎患者の同一口腔内でも部位によって歯周炎の罹患状態が著しく異なり,部位によって歯肉縁下細菌叢が異なると考えられているが,その詳細は不明である。その実態の詳細と,それに及ぼす影響因子を解明することは,歯周炎の効率的な治療法および予防法への大きな前進といえる。本研究の目的は,同一口腔内での部位による歯肉縁下細菌叢の違いが,どのような形成過程を経て生じるのか,その違いに関連する口腔内局所因子について検討することであった。 1.サルを用いた実験的歯周炎での経時的変化の検索結果から,歯肉の炎症の少ない部位では,総菌数およびP.gingivalis,P.intermedia,A.actinomycetemcomitansの優位な変化はないのに対し,プラークリテンションファクターとして綿糸を結紮し,歯肉の炎症を強く生じさせた部位では,まず最初の2週にP.i.とP.g.が有意に増加し,その後遅れてA.a.が増加し始めた。P.i.は4週までに増加傾向は止まるが,A.a.とP.g.は8週までに増加し,その後,A.a.は減少傾向,P.g.は大きな変化なく安定した。 2.歯周炎患者から採取した標本の走査型電顕による検索からは,健常群の歯肉縁下細菌叢は,ごく浅い部分に限局しており,その細菌叢は,長・短桿菌が主体であった。これに対し,細菌叢形成開始時期に歯肉に炎症のあったポケットでは,歯肉縁下深くにプラークが伸びており,その菌叢も複雑で,スピロヘータや鞭毛を持った菌など様々な菌が混在してみられた。 本研究の結果から,歯肉の炎症は単に歯垢付着の結果としての意義だけでなく,さらなる歯垢付着に影響する限局因子として働くことが示唆された。
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