Research Abstract |
本研究は,放射線による植物の体細胞突然変異の誘発実験より,放射線で生じるダイズの葉色変異斑の形態に基づく葉原基の分化階段の推定をした.薬緑素半優性変異ヘテロ接合型ダイズ種子および播種後1,3,7日令の実生にX線を200R照射すると,あとで成長した葉に,照射時期の違いにより,異なる形態の変異斑が発生した.第1,第2本葉に発生した変異斑は,大型の主脈型(変異斑が主脈を越えないが側脈を越えるもの),中型の側脈型(側脈を越えないが2次脈を越える変異斑),小型の2次脈型(2次脈を越えない変異斑)の3種に大別できた. 1日令照射では主脈型が大半で,3日令の照射では側脈型が大半で,7日令照射ではほとんどが2次脈型であった.主脈を越える超大型変異斑は,乾燥種子の中性子照射で第6本葉以降に数例発生した.これらの実験結果の解析から葉脈原基は,休眼種子と1日令実生の第1,第2本葉の原基では主脈原基が形成されているが,側脈原基は約40%が未分化である.3日令になると,側脈原基の分化は葉原基のほぼ全域で完了している.2次脈は最後に発生するが,7日令には葉原基のほぼ全域でその分化が完了することがわかった(Itoh and Kondo,1992). 変異斑は,X線照射時の播種後日数が増加すると,誘発変異斑の頻度は増加し,変異斑サイズは小さくなり,逆比例関係が成立したことから変異した細胞は正常細胞とほぼ同じ増殖率で細胞分裂することが判った.また,X線照射時の実生の日令と変異斑サイズから乾燥種子での単葉の葉の原基数は,約6000,第1本葉で約50であると推定できた. 出現した変異斑形態を手がかりにして,照射時の組織分化の状態を推定した結果と,タバコの葉原基に関する組織学的観察(Avery,1933; Wareing and Phillips,1981)との比較から,この手法がダイズの発生過程を知る上で,実際に役立つことが実証できた.
|