1992 Fiscal Year Annual Research Report
日本と中国の老人扶養システムに関する比較社会学的研究
Project/Area Number |
04801024
|
Research Institution | Asahi University |
Principal Investigator |
松戸 庸子 朝日大学, 教職課程センター, 助教授 (30183106)
|
Keywords | 老人扶養システム / 福祉社会 / 社会的サービス供給主体 / 同居型扶養 / 介護ネットワーク / ヴォランティア切符 / 包護組 / 労働福務公司 |
Research Abstract |
まず福祉国家論と福祉社会論をふまえ、社会保障制度の成熟と社会的サービス供給主体の特質という角度から、国際社会の中での位置付け及び特徴を確認した。福祉国家の日本は、老人関連制度やサービスの供給主体は公的セクターと家族である。しかしウルフェンデン報告にいうヴォランティアシステムが極めて未熟であることは、翻って市民社会の未成熟というマクロで比較文明論的な大きな問題をも提起している。 他方、中国の社会保障制度には、社会主義国という要因が特異性(経済力を大きく凌駕する社会福祉水準、再分配効果が地域間や階層間で不均等)を付与し、家族が老人扶養の重要なセクターであるが、意識や相続制度面での両国の伝統家族間の大きな差異は、家族型老人扶養の点でも両国のそれを同一視できないことを支唆している。地域ケアの代表としての“包護組"は、世代的、階層的にも局限性があり過渡期的なシステムと言わざるを得ない。中国では今、急速に市場経済原理を導入しつつあり、関連の営利システムも出現しており事態の推移から目が離せぬ。 日本のヴォランティアシステムの中で本研究が調査したのは、生活共同組合運動を母体にしたものと、“ヴォランティア切符"で知られる介護労力預金制度である。前者は消費者運動を背景に地域性と資源動員の容易さを特徴とする。全国規模のネットワークを目指す後者は、移動という高度産業社会の特質に対応でき、かつ情報化社会資源も自在に利用する。高齢化水準、性別役割分業、家族構成や家族意識などの変化や産業社会の要請としての社会移動などは、日本の老人扶養システムの変更(組合せの変更)を迫っており、本研究の調査対象となった相互支援ネットワークは、そうした新しい時代の要請に対する試みと評価できる。 なお研究成果の一部は『塩原勉教授定年退官記念論集』(1993年末に新曜社から刊行の予定で現在執筆中)に掲載することが決定している。
|