1992 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
04801049
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
福田 景道 島根大学, 教育学部, 助教授 (20181266)
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Keywords | 歴史物語 / 鏡物 / 歴史観 / 摂関政治 / 院政 / 宮廷 / 皇位継承 / 世継 |
Research Abstract |
本年度は、資料の収集・整序と,個別の歴史物語作品の読解に努め,それを踏まえて,当初計画で目標とした2点についても以下のような成果を得ている。 1.「宮廷を中心とした日本歴史の流れを捉え直し,それと歴史物語各作品の歴史観との比較を試みる」という課題に関しては,最近の歴史学の成果を吸収しながら,日本通史の再構築と政治体制の変遷の把握にある程度は成功し,成果を得ている。たとえば,摂関政治や院政の時代は,従来のように摂関家と天皇家との対立関係のみではなく,相互依存関係でも捉えられるという新視点は,自ずと各作品の歴史観究明に寄与するであろう。 2.「上の成果に基づいて各歴史物語の個別の継承関係を明らかにする」点については,表面的な継承意識は把捉できたが,深層解明については不十分と言わざるを得ない。ただし,継承の終着点とも言える『増鏡』の探究によって先行諸作品を逆照射しつつあり,新知見の可能性は拓かれた。 なお,以上のように当初計画に対処する過程で,次の3点が新たに知られ,次年度以降の課題として浮上した。 1.歴史物語には,『水鏡』や『秋津島物語』のようにはるか太古を叙述するものがあって,比較的近い時代を対象とする他の作品と截然と区別される。さらに後者も,『栄花物語』『今鏡』のように同時代(現代)を対象とするものと『大鏡』のように少し前の時代(近代)を扱うものとでは性格を異にする。 2.『栄花物語』正編を補うための同続編書き継ぎも,歴史物語の継承行為と見なせる。そうすると,『大鏡』を起点とする鏡物の継承と並行して,もう一つの歴史物語系列が存在することになる。 3.完全体の『秋津島物語』を想定すると,それだけで第三の和文体日本通史を形成していた可能性がある。
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