1993 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
05238205
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
一宮 彪彦 名古屋大学, 工学部, 教授 (00023292)
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Keywords | 多価イオン / 中性化 / 固体表面 / 2次電子放出 |
Research Abstract |
多価イオンは空の束縛単位と大きい静電ポテンシャルを持っており、固体表面との相互作用により多くの特異な効果が期待できる。本研究では多価イオンと固体表面との相互作用による多価イオンへの電荷移行過程を調べた。特にタンタル表面へのアルゴン多価イオン入射による2次電子放出スペクトルおよび放出収率の測定を行った。その結果2次電子スペクトルにおいてはアルゴンイオンの価数によらず2eVにピークを持ち半値幅3eVの低速2次電子が主に放出され、20eV以上のエネルギーの電子はほとんど放出されないことを示した。このスペクトルは12eVおよび15eVに弱い構造を持ち、前者はオージェ胱励起または自動イオン化を伴うイオンの中性化、後者はTa-NVVオージェ電子と考えられる。また、2次電子放出率において強い多価イオン入射角依存性が得られた。多価イオンからの2次電子放出にはイオンの運動エネルギーによる運動量放出とイオンの持つポテンシャルエネルギーによるポテンシャル放出があるが、2次電子放出の入射角依存性の解析によってこれらの2種類の放出過程を分離することができた。また、この結果からほとんどのイオンは固体表面内に入射する前に中性化されることが示された。しかし、もし入射前の多価イオンの中性化がオージェ中性化あるいは共鳴中性化を伴うオージェ脱励起によるとすると、2次電子スペクトルにはエネルギー遷移に伴う強い構造が現れるはずであるが、測定スペクトルにはほとんどそのような構造が見られなかった。したがって中性化後の励起原子は真空中あるいは極表面で脱励起せず励起状態のまま固体内に侵入し表面からかなり深い位置で2次電子を放出するものと考えられる。これは2次電子スペクトルが脱出深さの比較的大きい10eV以下の電子でほとんど占められていることからも妥当である。以上のように本実験から多価イオンによる2次電子放出過程に関する新しい知見が得られた。
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